Short Story #novel5_# | ナノ

セーラー服とブレザーの君


突然の雨に、雨宿りの軒先。
駆け込んだ店は、雨のせいか人通りのない商店街の片隅にある小さな雑貨屋だった。
取り出したハンカチで髪をふき、これ以上濡れないように鞄を抱きしめて一歩後ずさる、と。
とん、と背中に何かが触れた。

「ん?」

「あ…」

驚いて振り向くと、同じ表情で立つ男の人。上から下までずぶ濡れのこの人も、きっと私と似たような境遇だろう。
使いますか?と、咄嗟に持っていたハンカチを差し出す。その人は眼鏡を外して濡れた髪をかき上げながら、おおきに、と柔らかく微笑んだ。
しとしとと静かに、しかし絶え間なく雨は降り続けていて、すべての音が吸い込まれてしまったような静寂に包まれる。

「雨、止みそうにないですね…」

「せやなぁ…」

沈黙に耐えられず言葉を探すけれど、気の利いた話題は出てこない。そろそろと様子をうかがうように横目で見上げると、ちょうど眼鏡をかけ直した彼と目が合った。

「…なあ、自分」

「は、はい」

「これ、洗って返すな。すっかり濡れてもうたから」

「え、そんな。いいですよ」

「そういうわけにもいかんて。可愛いお嬢さんのハンカチ濡らしてしもたんやから」

「え、えっと、あの」

そうは言われても、彼の制服はブレザー。私の学校は学ランとセーラー服だし、ハンカチひとつで学校も違う人の手を煩わせるのも躊躇われる。
どうしたものかと答えあぐねていると、急に視界が明るくなった。外に目をやれば、雨がすっかりあがっている。雲の切れ間からのぞいた太陽。陽射しがきらきらと輝く。

「名前、訊いてもええか?」

明るくなった空間に、優しげな微笑みがくっきりと浮かぶ。柔らかく、けれど有無を言わせずそうたずねる白いシャツの彼がやけにまぶしく見えたのは、きっとその光のせいだ。


Fin.



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