跡部side 02.



「わぁ…テニスコートまであるんですか」

「当然だ」

本部を出て会議室、食堂、ステージ…と学園祭の会場をまわり、太陽が傾き始める頃、最後に連れてこられたのはテニスコートだった。

「跡部さんは、手塚先輩と試合したことあるんですか?」

浮かんだ疑問をぶつけてみる。跡部は静かに頷いた。

「ああ…関東大会でな」

結果が気になったけれど、その表情から何となく聞いてはいけないような気がした。無難に相槌を打ち、跡部と同じようにオレンジ色に染まるテニスコートを見つめる。

「……そろそろ帰るか」

「あ、はい」

送っていく、との言葉に甘え、莉緒は再び車で身を縮こまらせる。行きほど緊張はしていないものの、高級感溢れる車内は一度乗ったくらいで慣れるようなものではない。

「あ」

思わず声を上げる。家の近くまで来たところで、莉緒は大変なことに気づいた。

「あ…跡部さん…」

「あーん?どうした」

「私、鞄学校に置いてきたままです…!」

生徒会室を出るとき、鞄を取ってくる余裕はなかった。家の鍵から何から全部あの中だし、流石に1日ないのは困る。だが、慌てて学校に戻ると言いかけた莉緒を一瞥し、面白そうに跡部は笑った。

「その必要はないようだぜ」

「え?」

「やるじゃねぇの」

ふん、と鼻を鳴らすと跡部は莉緒に紙を渡した。見れば、電話番号とメールアドレスが書いてある。

「登録しておけ。じゃあな」

事態が飲み込めないままに家の前に停められた車を降りると、そこには見知った人物が立っていた。

「手塚先輩…?」

車が去っていく音がする。送ってもらったお礼を言っていないと気づいて慌てて車に頭を下げ、向き直ると手塚は莉緒に鞄を差し出した。

「……生徒会室に、忘れ物だ」

今度は手塚に頭を下げながら、莉緒は先ほどの跡部の言葉を反芻していた。




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