00.はじまりのプロローグ
生徒会室に響くノック音に、莉緒は反射的に席を立つ。
来訪者を迎え入れるためドアを開けると、見慣れぬ制服の男子生徒が立っていた。
「手塚はいるか?」
不遜とも取れるような態度に、莉緒は少しだけ眉をひそめる。
「失礼ですが…あなたは?」
「氷帝学園中等部生徒会長、跡部景吾だ」
氷帝学園。その名前には聞き覚えがあった。青学と同じくテニスの強豪校で、部員の層も厚いと以前手塚先輩が話していたのを覚えている。
「手塚先輩は今席を外しているので、応接室にご案内しますね」
「ああ、悪いな」
隣室に促すと、備え付けのカウンターで莉緒はてきぱきとお茶を準備し始めた。何種類かある茶葉の中から、ひとつを選ぶ。さほど高価ではないものの、香りと味に定評がある老舗店のもの。
「お前は生徒会の者か?」
「はい」
ティーポットにお湯を注ぎながら答える。カップを温めてから淹れるのはもう習慣だ。続いて、砂糖とソーサーを戸棚から出す。
「どうぞ」
カップの持ち手を左側にして、音を立てないように置く。
莉緒の所作を観察するように見ていた跡部は紅茶に口を付けると、誰とはなしに呟いた。
「ふん…手塚が側に置きたがるわけだ」
「え?」
聞き返そうとしたとき、生徒会室のドアが開いた。資料らしき書類を抱えた手塚が入ってくる。
「待たせたな、跡部」
「構わねぇよ。それより、学園祭委員を決めた」
にや、と口の端をあげて跡部は莉緒に手を伸ばす。
邪魔にならないようティーセットを片付けていた莉緒は、気づけばその腕の中にいた。
「こいつにする」
「……有坂は、生徒会役員だが」
「好都合じゃねぇか、話が早い。仕事慣れもしていそうだしな」
突然の展開に莉緒は目を白黒させるばかりで何も言えない。引き寄せられたこともそれを手塚に見られていることも、学園祭委員の話にも。
「借りるぞ、手塚」
跡部は半ば強引に莉緒の手を引く。困惑したまま助けを求めるように手塚を見ると、見たことのない表情で莉緒を見ていた。