王子に出逢いました
お昼ご飯を済ませて友人と一緒に教室に戻り席に着く。相変わらず新開悠人は隣の席で携帯を弄り一人を堪能しているようだ。平和でなによりです。今日の私はすこぶる機嫌が良いから新開悠人を見たぐらいで何とも思わない。
「いやマジでイケメンだった」
「あんたそればっかじゃん」
「そうもなるよ」
そう、この学校に入学してついに私は理想の優しくてカッコイイ人に出会ったのだ。昼休みに友人と食堂に向かっている最中に急ぎすぎて曲がり角で人とぶつかってしまい、衝撃で尻もちをついた私を笑いながら見ていた友人は一先ず置いておく。ぶつかった相手に謝ろうとすれば目の前に腕が差し出され顔を上げて見ると綺麗な顔立ちをした男の人が立っていた。「ごめんね、大丈夫?」と言いながら差し出してくれた手を自然に取り立ち上がって、ちゃんと周りを見ていなかった私も悪かったからと両手をぶんぶん振って謝り顔をもう一度見て息が詰まった。凄く好みの顔だ。
その後怪我をしていないか確認され、問題ない事を告げればふわりと笑って「良かったぁ」と頭に手を置かれた。そんな普通に女の子の頭触れるとかイケメンにしか許されてないよ。突然の乙女ゲームのイベントみたいな展開に上手く喋れずあわあわしていると、その人は一緒にいた友達らしき人に名前を呼ばれて去って行き、一方私は暫く動けず友人に後頭部を叩かれて正気を取り戻したのだ。あんな人いたなんて知らなかった。ってゆうか叩く必要なくね?
「たぶん二年じゃないよね」
「んー、三年っぽかった」
見た事ない人だったし同じ一年では無いのは確か。先輩だというのは分かるけど、二年ではないんじゃないかと感じたのには理由がある。
「あの高身長は狡い」
「めちゃくちゃ背高くなかった?」
「あれは2m超えてるでしょ」
突然隣からガタンと音が聞こえて会話に夢中になっていた私達はビックリして音の方に顔を向ける。視線の先では新開悠人が持っていただろう携帯を落として驚いた表情で私の事を見ていた。
「え、なに?こわ」
「それ誰の事言ってんの」
「は?」
「一緒にいた人にタクトって呼ばれてたよね」
「そうそう、名前までカッコイイ」
なんだ興味あんのか。新開悠人も背は低い方じゃないし寧ろ高い方なんじゃないかと思う。でもさっき出逢った彼の方が遥かに高いからね。残念だったな、お前の負けだぞ。何の勝負か知らんけど。
「苗字じゃ無理だから諦めなよ」
「いや、意味分かんないし」
「新開くん知ってる人?」
私の始まったばかりの恋物語を真っ向から否定してくる新開悠人に疑問符を浮かべれば友人が彼の事を知ってるのかと質問し、見るからに動揺した顔で黙って口を結ぶ。え、まじか。背が高い事とタクトと言う名前しか情報を知らないけど、もしかしたらまた会えるのでは?と考えて口を開く。
「ねぇ」
「やだよ」
まだ何も言ってないんだけど。私が何を言おうとしたのか察知したらしく、ふいと顔を逸らされた。せめて聞けよ、私の話しを聞いてから断れよ感じ悪いな。
「葦木場さんに苗字とか釣り合わないから」
「葦木場さんって言うんだ」
「気安く呼ばないでくんない?」
「あんた葦木場さんのなんなの」
彼女かお前は。自分でポロっと零した彼の苗字を復唱したら呼ぶ事すら認められなかった。いや葦木場さんの名前を呼ぶのにコイツの許可いらないだろ。え、葦木場さんって名前までほんとカッコイイな素敵すぎる。あんなに優しそうでカッコ良くて名前も素敵とか私箱根学園に入学して良かった。
「新開くんが知ってるって事は部活が一緒とか?」
友人がそう聞くとまた黙ってしまった新開悠人に、その反応はどう見ても肯定としか取れない。友人のお陰でチャリ部に所属しているという新情報までゲットし、興味なんてこれっぽっちも無かったチャリ部の見学に行こうか考える。
「絶対来んなよ」
「だから何も言ってないんだけど」
何回も人の思考を読んでくるなよ。怖いんだけど。
別に私が何をしようとコイツの許可はいらないし、また葦木場さんに会う為にチャリ部を見に行こう。心の中でそう決めて、ふと視線を感じ新開悠人の顔を見ると心底嫌そうな顔をしている。おいおい、最近見てなかったけどその顔ほんとブサイクだからやめとけ。
「葦木場さんに迷惑かけたら殴るから」
「急に物騒じゃん」
「新開くん殴るはヤバイよ」
「苗字次第だね」
すっごい真顔で言ってくるのが余計に怖さを増してる。唐突に物騒になる新開悠人に友人も声をかけるけど私次第だと言い捨てた。どんだけ私が葦木場さんに変な事すると思ってんだ。見に行くだけだし、あわよくば仲良くなれたら良いなって考えてるだけだ。
「私を何だと思ってんだ」
「口の悪い猿人」
「ゴリラから成長させてんなよ」
なにちょっと人間に近付いてんだよ。なんだ、喋れるからか?ほんっと絶妙に腹立つ事ばっかり言ってくる。そんで目の前で笑ってる友人もそこはフォローしてくれないのか。あんたの友達が猿人になったんですけど。
こんな奴の言う事聞くなんてしたくないから、葦木場さんを探しにチャリ部の練習を見に行ってやろうと誓った。