異常なのはお互い様



休み時間に自分の世界に入る為に静かに本を読んでいれば、隣からガタガタと机の中を漁る音が聞こえてきた。最初は無視して本に集中していたけど、鳴り止まないその音にイライラが募り視線を上げて隣に目を向ける。

「ねぇ」
「なに」
「さっきからガタガタうっさいんだけど」
「どうしたの?とか聞けないわけ」
「心配してないのに?」

真横からガタガタうるさくて本に集中出来なかったからうるさいと言っただけなのに、なんで音の原因のお前が強気なんだ。そんな事で別に心配もする訳がないし、困ったフリしてれば誰かが心配して声をかけてくれると思うなよ。

「教科書忘れた」
「ざまぁ」

ふいっと前を向いて興味が無いと言わんばかりに吐き捨てる。実際興味ないし関係ない。本を閉じてカバンにしまい机に手を入れて次の授業の準備をしようとすれば私の机に手が置かれた。このタイミングで机に手を置いてくる奴なんて今喋ってる新開悠人しかいない訳で、まさか見せろとか言ってくるんじゃないだろうなと腕を辿って顔を横目で見る。

「見せて」
「はぁ?やだし」
「いや見せろよ」
「そんなの自業自得でしょ」

忘れたのなんて自分のせいだろ。ってゆうかなんでコイツ忘れた側のクセにこんなにも態度デカいの。そんな奴に自分の教科書を見せてあげるなんて思うほど私の心は広くない。しかもそうなったら机もくっつけないといけなくなる。尚更嫌だ。教科書を探して机の中の物を纏めて掴み半分ぐらい引っ張り出して一冊ずつ見ていく。

あれ、嘘でしょ?一通り全ての教科書とノートを確認したけど、探している教科書が見当たらない。もう一度全て出して今度は机の上に広げで見ていく。いやいやいや、無い事ないでしょ。昨日ちゃんと宿題を終えた後に準備したはず。

「え、ない」
「は?」

私が唐突にバタつき始めた事で無言で様子を伺っていた新開悠人に向かって言う。何言ってんだコイツって顔で聞き返してくるけど無い物は無い。もうとっくに予鈴は鳴っていたし今から友人のクラスに走って借りに行く事も出来ない。絶望しながら間抜け顔をしたままの新開悠人にもう一度言う。

「教科書、忘れた」
「ばか?」
「いやあんたも忘れてるから」
「偉そうに喋っといて忘れてるような奴よりマシだし」
「はぁ?うざ」

真顔でどストレートな悪口を言う新開悠人に忘れたのはお前も同じだろと反論し、またお互いに喧嘩腰で言い合いが始まりかけたところで私でも新開悠人でもない声にそれは遮られた。

「新開、苗字、授業始まってるからな」

その声に驚いて二人して前を見ると気が付けば周りは静かになっていて、クラスメイト達は無言で私達を見ている。そしていつの間に入ってきたのか教卓には先生が立っていた。マジで気付かなかった。なんか言ってよ。


先生に言われ前の席の子に教科書を借りて渋々机をくっつけて挟んで見る事になり、前の席の子まで隣と机を寄せて授業を受けている。巻き込んでしまって申し訳ないという気持ちはあるけど、教科書を借りた時に何で私だけ謝らないといけないんだ。

「ちょっと、腕当たるんだけど」
「離れれば?」
「あんたがもっと向こう行ってよ」

一つの教科書を覗き込めば必然的に近くなるしノートに書き込みをしていれば腕が当たりそうになるし全く授業に集中出来なくて何も頭に入ってこない。これが優しくてカッコイイ男子とかだったら違う意味で集中出来ないんだろうけど。小声で文句を言えば同じように小声で言い返してくる。授業中ずっとこんな状態が続き、時々先生にバレては注意をされ「お前ら仲が良いのは分かるけど静かにしろよ」とまで言われてしまった。どこ見て仲が良いなんて言ってるんだ。


授業が終わり全然まともに書き取れていない自分のノートを眺め、とっくに流れ出ていった授業内容を思い出せる訳も無く大人しくノートを閉じた。もうこれは誰かにノートを借りて写させてもらおう。あんな小競り合いをしていなければ書き取りぐらい出来たのに何してんだ私は。

「あんたのせいで授業全く意味わかんなかったし」
「頭の問題じゃなくて?」
「一回殴って良い?」
「良いって言う奴いないだろ」

なんでコイツはこうも絶妙に私の腹立つ言い回しをしてくるのか。借りていた教科書を前の席の子に返す為に声を掛けると、振り返ったその子に向かって隣から「ありがと」と聞こえてきた。一応礼は言えるのかと顔を見て時が止まった気がする。

「え、待って待って」

そんな風に笑えたのかって思うぐらい優しく微笑んでお礼を言っていた新開悠人に混乱しながら、きっと私はとてつもなくバカみたいな顔をしている。突然片手で頭を抱えて制止の言葉を吐き出した私を、新開悠人は訝しげな表情を全面に出して続きを待っていた。態度変わり過ぎじゃないか。

「なんか優しくない?」
「普通でしょ」
「それが普通なら私はあんたの異常なとこしか知らない」
「俺からしたら苗字のが異常だから」
「わぁ、むかつく」

さっきのが普通なの?それなら私への態度おかしくないか?
どう考えても異常でしかない態度に疑問を持ちそう言うと、私の方が異常だと言ってくる。お前が最初にそうだったから私もこうなんだよ。元はと言えばくだらない事でキレッキレな態度を取ってきた新開悠人のせいで私も喧嘩腰になってしまうだけで、他の子と同じ様に普通に対応してくれてたらこうもならかったのに。

「あんたがもっと、いや、無理か」
「なんだよ」

今更態度を改められたところで受け入れるのは無理だなと、想像してすぐにやめた。言いかけた言葉の続きが気になっている様子の新開悠人に首を横に振って分かりやすく溜め息を吐き会話を強制終了させる。生まれ変わっても有り得ないわ。



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