仲良くなる気なんて更々無い




朝やたらと機嫌の悪かった隣の席の新開悠人にほんの少しの優しさを振り絞って飴をあげたら、何を思ったのかその後も表情一つ変えずに片手を出してきて「飴」と何度も催促された。調子に乗るなよ馬鹿野郎。無視すれば聞こえてないと思ったらしく出していた手を伸ばしてきてもう一度催促されて思いっきり手を叩いてやった。

「私は飴じゃないんだよ」

なにすんだって顔で私を見た瞬間にそう言ってやれば、グッと眉間に皺を寄せて嫌々というような表情で「飴、ちょうだい」と言ってきた。それが人に物を強請る態度なのか。なによりそんな嫌なら自分で買いに行けよ。と心の中で全力で悪態を吐いて、ちゃんと言い直した所は素直だと認めて渋々飴をカバンから出して渡してあげた。私、優しくないか。

「私の優しさに感謝しなよ」
「優しい子はあんな力で叩かないから」

確かに思いっきり叩いたけど悪いのはお前だろ。叩いたのも手の平な訳だしちょっと気合いの入ったハイタッチみたいなもんじゃん。あれで痛いとか言われたら寧ろどんだけ非力な男なんだって思われるぞ新開悠人。

だいぶ朝よりも落ち着いた雰囲気になっていたから、なんであんなにもイライラとしていたのか何となく聞いてみると凄い嫌な顔をされた。やめろブサイク。

「言いたくないなら別に言わなくて良いけど」

正直そこまで興味無いし。ただ八つ当たりされて朝からイライラさせられた理由がくだらなかったら文句言ってやろうと思っただけだ。

「昨日、入部するつもりだった部の部室に行って」

え、話すんだ。めちゃくちゃ嫌な顔してたやん。すんごいブサイクだったじゃん。なに普通に真剣な顔して話し出してんのコイツ。最初の方はそんな事を考えてたせいで全然頭に入ってこなかったけど、話を聞いて要約すると元々新開悠人のお兄さんが在籍してた部活を覗いてみたら似てるって騒がれて勝手に無断で写真まで撮られたらしい。そんで昔からお兄さんと比べられてばっかだったのが嫌だとかなんとか言ってた気がする。長いからなんか分かんないけどそんな感じ。

「はぁ?そんなくだらない理由であんなイラついてたの」
「まじで言うんじゃなかった」
「いや知らんし、あんたが勝手に話したんじゃん」

先に聞いたのは私だけど嫌なら話さなくて良いって言ったのに語り出したのは自分だろ。ほんとどうでも良い内容だったわ。そういえば初めて私が声を掛けた時も何かお兄さんの事がどうのこうの言ってキレてきたな。

「ってゆうか、まずあんたがどんだけお兄さんに固執してんの?あんたは新開悠人でしょ、気にする意味が分かんない」

比べられようが周りがお兄さんの事チヤホヤしてようが関係ないじゃんって思ってしまう。私にはそんなお兄さんがいる訳じゃないから同じ気持ちを味わう事も理解する事も出来ないけど、そんなくだらない事でイライラして八つ当たりして自分が可哀想だと悲観してるのは時間の無駄じゃないか。

「俺がどんな思いしてきたかも知らないクセに」
「なに、知ってほしいの?」
「は?」
「知ってほしけりゃ自分から話せば?」

知りたいだなんてこれっぽっちも思わない。どんな思いしてきたかとかどうでも良い。でも、知らないクセにって言って周りを跳ね除けるぐらいなら自分から話して嫌なもんは嫌って言えば良いだけの話だと思う。

「言ったところで変わらないだろ」
「言わないと何も変わらないままでしょ」

そこまで言って予鈴が鳴り響く。朝読み始めた本が意外にも面白かったから続き読みたかったのに開く事すら出来なかった。くっそ、新開悠人のせいだ。黙って私に向けていた顔を前に向けそのまま教科書を取り出している。

今少し話してみて、私がこの新開悠人をこんなにも嫌いな理由が分かった。誰よりも自分が可哀想だと思い込んで、優秀なお兄さんに全てを持っていかれてしまってると怯えてるクセに、それを隠そうとして必死で意地を張っているからだ。
比べられるのが嫌だって、自分自身を見て新開悠人を評価してほしいと素直に言えば良いのに。そんな事で悩んだりした事も無い私は新開悠人の気持ちに寄り添うなんて事は出来ない。だから尚更見ていて、話をしてイライラするんだろう。

静かになった新開悠人をスルーして、昼休みに教室まで来た友人と一緒に購買でパンを買って教室へ戻る。私達とは時間差で購買に行ったのか、少しして新開悠人が戻って来て隣の席に座り袋からパンを取り出すと齧り付いていた。

「そう言えば二人は喧嘩とかしてない?」
「二人って誰と誰」
「あんたと新開くん」

なんでこのタイミングでぶっ込んでくるんだ。喧嘩はしてない、とは言い切れないけど今の状態は喧嘩ではないはず。あの休み時間から無言が続いてるし、たぶんあっちが気不味くなってるんじゃないか。

「してない、と思う」
「思うってなに」

目の前の友人は笑って「なにそれ」と言ってるのに対して、隣のコイツは目が完全に笑ってない。やべぇよ、その目。何人かやってきた目してるからね。合ってしまった視線を急いで逸らし友人に向き直れば肩肘を机について此方に顔を向けてくる。こっち見んなバカ。

「苗字はなんでそんな可愛げが無いわけ」
「あんたに可愛げ出しても意味ないから」
「すげーうざいんだけど」
「え、気が合うね」

顔歪めてブサイク面する奴に言われたくないんだけど。もっとカッコ良くて優しい人に対してだったら僅かばかりの女子力フル活動してもっと可愛げ出すわ。貼り付けたようなにっこりと笑った顔で言われて思わず私も今日一番の笑顔で返してやる。私達のやり取りを正面から見ていた友人は口をぽかんと開けて驚きながら「なんなのあんた達、仲良いの?」と尋ねてきた。

「ほんとやめて」

こんな奴と仲が良いとか絶対有り得ないから。




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