希望に溢れた高校生活も崩れ去る
あの新開悠人との一件からクラスで私は中々にヤバい奴だと認定されてしまった。新開悠人とは目が合えばお互い睨み合いが始まるし周囲を困らせる程に空気を悪くさせていた。
そんな中学校生活も過ぎ去り、晴れて高校へと進学。元々お世辞でも良いとは言えない頭をフルで使いまくり見事志望校に合格する事が出来たのだ。これでギスギスした日々におさらばして心機一転楽しい高校生ライフを送れる。
「最っ悪なんだけど」
「その言葉そのまま返す」
あんなにも必死で勉強してやっとの思いで入学した箱根学園で、一緒に合格をした友人とは廊下で別れ意気揚々と自分のクラスに入り席に着いたまでは良かった。隣の席に荷物を置き椅子に座った人影を視界の端に捉え、最初が大事だと「よろしく」と言ってこの日の為に会得した女の子らしい微笑みを向けた先にいたのは、つい数週間前まで秦野中で私と毎日睨み合っていた新開悠人。
予想していなかった状況に作っていた表情なんて崩れ去り、私だけでなく新開悠人も驚いた顔をしていた。そしてお互い静かに顔を逸らし目も合わせずに前を向いたままぐちぐちと言い合いが始まったのだ。
「なんでいんの」
「こっちのセリフ」
「うざ」
素敵な高校ライフがまっていると思っていたのに、なんでまたコイツと同じ学校で、しかも同じクラスの隣の席とか最悪すぎる。これが片想いしてる相手とかだったら少女漫画みたいに恋とかに発展してくんだろうな、なんて思うけどコイツだけは絶対に有り得ない。
「え、アンタ新開くんと同じクラスだったんだ」
「ほんと何なのアイツ」
放課後、友人と一緒に寮へと向かって歩きながら今日の出来事を話す。「そんな漫画みたいな事あんだね」と笑っているところ悪いけど、こっちとしてはマジで勘弁してほしい。なんでよりによって新開悠人なんだ。もっと別の中途半端にしか喋ったこと無くて名前も思い出せないような元クラスメイトとかの方がマシだった。
「まぁ、嫌かもしんないけどさ、諦めて新開くんの顔の良さに免じて折れてあげれば?」
「は?何言ってんの?」
「え、だって新開くんイケメンじゃん」
おいおい、ふざけんな。イケメンだからってあんな横柄な態度を許せる訳ないだろ。確かにイケメンではあるけど!顔は結構整ってるんだよなぁ、なんて思ったりはするけど!態度が全てを台無しにしてんのよ。すんごい偉そうだけど顔が良いから仕方ないか……ってなる訳ないでしょうよ。
寮に着いて自分の部屋に入ると荷物を乱雑に降ろして大きな溜め息を吐く。今日の出来事を思い出してまたイライラしながら、始まったばかりの高校生活が初っ端から台無しにされたと嘆いて備え付けのベッドにダイブした。
「そのあからさまに機嫌悪いオーラ出すのやめてくんない」
「別に、そんなの出してないし」
出てんのよ、それ。一言目の「別に」に全ての負の感情が詰め込まれてんのよ。どう見ても機嫌悪そうだし、なんならここだけ空気違うから。若干酸素の薄さまで感じ始めちゃってるからね。
「いや、出てんじゃん」
「気にしなきゃ良いだろ」
「隣の席なんだから嫌でも分かんの」
「反対向いとけば?」
まじでなんなんだコイツ。昨日も中々につんけんしてたけど、今日から完全に新開悠人の存在をスルーしてやろうと意気込んで登校したって言うのに…。教室に入って自分の席に着けば隣からひしひしと伝わってくる謎の不機嫌ですオーラに耐えきれず思わず声を掛けてしまった。
「八つ当たりしないでよ」
「してないし」
だからしてるでしょ、それ。登校してきたばっかの私が何か気に触るような事をした訳じゃないと思うし、これは私は悪くないと言い切れる。もし私が悪いって言いたいとしたら、何が悪いのか教えてくれ。なんだ、私が隣の席で今日も登校してきたのがいけなかったとでも言いたいのか。っていうか昨日の今日で機嫌悪くなり過ぎじゃない?朝イチからそんな空気纏った奴の隣で一日過ごすこっちの身にもなれよ。
何を言っても新開悠人の態度は変わらないだろうと諦めて椅子に座ってカバンを開けば昨日帰りに寄ったコンビニで買った飴の袋が目に入り、無造作に封を切って一つ口に放り込む。私には似合わない可愛らしいピンクのふんわりとしたパッケージ通り口の中には甘さが広がっていく。
「ねぇ」
「まだなんか文句あるわけ」
「ほんとうざいね、あんた」
「じゃあ一々突っかかってくんな……なに、これ」
言い返してくる新開悠人に向かって取り出した飴を投げれば腕に当たり机に転がった。渋い顔をしたままそれを摘んで逸らしたままだった顔を私の方へ向ける。
「飴」
「見てわかるけど」
バカにしてんの?と言いたげに更に表情を歪める。周りからはイケメンとか言われてるけど今のその顔すんごいブスだよ。鏡でも見せてやりたい。なにこれって聞かれたから答えただけでここまで表情歪めさせられるって、どんだけ私の事嫌いなんだ。私も嫌いだけど。
「カリカリしてんなら糖分でも摂っときなよ」
「普通カルシウムじゃないの」
「そんなピンポイントでカルシウム補うもの持ってないし」
「頼んでないし」
「うざ」
素直にありがとうぐらい言えよ。ああ言えばこう言う奴だな。カバンから教科書を出して机にしまい新開悠人から気を逸らす為に持ってきた本を開いて黙って読み始めると、隣から飴の包装を破く音が聞こえた。
「あま」
「嫌なら捨てれば」
「別に、嫌いじゃないし」
あっそ、と言いかけて口を閉じる。隣に座っている新開悠人はもうさっきみたいに酷くイライラしているような雰囲気は無くなったようで、甘ったるい飴を口の中で転がしながら目の前の本に集中して文字の羅列を追った。