どういう風の吹き回し



新開悠人が突然私を送ると言って一緒に帰り、あの後普通に何てことない会話を続け寮の前で別れた。その翌日、一日何事もなく授業を受け放課後になると新開悠人から「今日も遅いの」と聞かれ、特に何も考えていなかったけど何故か頷いてしまった。まぁ別に帰る前に宿題を片付けてしまった方が何かと楽だし、図書室でまた宿題でもやるかと考えていれば「じゃあ送ってく」と、そう言い残して教室を出て行き私は唖然としていた。たまたまその場に居合わせた友人は、にやついた顔で私の席の前まで来ると嬉しそうに話始める。

「なになに、あんた新開くんに送ってもらうの?」
「らしいね」
「何かあったの? 昨日はギスギスだったじゃん」

口元緩々だぞ。何がそんなに嬉しいんだよ。って言うか昨日ギスギスした雰囲気になったのはあんたの所為でもあるんだからね。帰り支度をしながら何も無いと適当に返しても、納得せず席から離れない彼女に溜め息を吐く。そりゃそうだろうな。昨日のあの雰囲気から、ただ今まで通り元に戻っただけでなく新開悠人が私を送っていくと言ったんだから。私も彼女の立場だったら何かあったんじゃないかと疑ってしまう。

「寝たら忘れたんじゃないの」
「そんな事ある?」

勘繰りたくなる気持ちは分かる。でも私だって意味が分からないんだから説明のしようが無い。昨日帰りに偶然会って、ちょっと喋ってる内に何故か部室前で待たされたかと思えば寮までついてきた。ついてきた、はダメか。語弊があるな。また怒られてしまう。

「よく分かんないんだよあいつ」

何を考えているのか、本当に謎すぎて理解出来ないのだ。正に思春期の男子だなって思うぐらい情緒が分からない。たぶん部活で何かいい事でもあったんだろう。それで私と出会した時には機嫌が良くなってたんだ。そのご機嫌タイムが今も継続してるんだと思い込んでこれ以上無駄に考えるのを止めた。暫く教室で話し、先に帰ってしまった彼女がいなくなった事で暇になり図書室へ向かう。昨日同様にさっさと宿題を片付けて本でも読もうかな。

この学園の図書室はかなり広い。いろんな本が置いてあって意外に楽しくて、何冊か選び黙々と読み進めていた。静かな室内でここが図書室だと言うことも忘れかけていれば、不意に扉の開く音が聞こえて顔を上げる。

「探したんだけど」

不貞腐れた顔で文句を言いながら入ってきたのは新開悠人で、昨日とは違いジャージではなく制服姿。ハッとして壁に掛けられた時計に目をやると随分時間が経っており、もう部活も終わっていたんだと気付かされる。

「あ、ごめん、時間見てなかった」
「なに読んでんの」

目の前まで来ると机に置かれた数冊の本を手に取ってパラパラと捲り流し見する新開悠人。そんなんで内容分かんないだろ。つまんなそうな顔してる時点で興味ないのは丸わかりだぞ。

「前から思ってたけどさ」
「なに」
「苗字が本読んでんのってあんま似合わないよね」
「おい、どういう事だ」

ぱたりと本を閉じて口を開き言い放つ。なんだコイツ、突然喧嘩売ってんのか。あれか、わざわざ練習終わりに探させたからか。

「読んでる本も訳分かんないし」
「それは頭の問題じゃない?」

ちゃんと読めば理解出来るだろ。訳分かんないのはお前の頭の所為であって本が難解な訳じゃない。自分も読んでいた本を閉じて、荷物を片付けると置いてあった本を纏めて持ち立ち上がる。

「最後まで読まなくていいの」
「別に明日もあるし」
「ふーん」
「似合わないらしいし?」

わざとらしく嫌味を含めて言い、本を返そうと抜き取った棚に足を進めれば「怒ってんの」と後をついてくる。失言に気付いたのかって言うかまず失言だと思ってなかったのコイツ。悪気は無かったとかそういう事か。それが一番タチ悪いって事にまず気付けよ。

「あれだから、なんか、イメージと違うって言うか」
「私のイメージってどんな風なの」

最後の本を棚に差し込んで鞄を肩に掛け直し振り返る。新開悠人が私に対して持ってるイメージなんて碌なもんじゃないだろう。初めて会話をした時から顔を合わせれば口喧嘩をして、普通に話せたかと思えばちょっとした些細なことで喧嘩腰になる。そう考えてみたら確かに私が大人しく本の虫になっているのはイメージとか違ってくるのかもしれない。

「……お節介で口煩い奴」

おいお前まじか。普通こういう時って嘘でも良いところとか言って険悪にならないようにするんじゃないの。

「え、喧嘩売ってる?」
「売ってねーし」
「世話焼きで元気な可愛い女の子とか言えないの」
「自分で言うなよ」

ちょっと言い換えただけなのに冷めきった目で言わないでよ。相変わらず腹立つなぁ。他に誰もそんな事言ってくれないんだから自分で言うしかないじゃん。いっつも自給自足だよ。本を片付け終わったのを見て扉の方に歩いていく新開悠人に今度は私がついていく。

「気が強くて逞しい女の間違いじゃね」

くっそ、違うって否定したくても気が強いのは間違いじゃない。逞しさはどうか知らないけど。絶対コイツ前に言ってたゴリラ思い浮かべてるんだろうね。わかりにくい表情で笑うの我慢してんじゃねーよ。声震えてるから。

「逞しい女は送ってもらわなくても大丈夫だけど」
「逞しくても一応女の子だろ」

今までも一人で帰ってたし余裕で帰れるし。そう思って言えば間髪入れずに返された。一応ってなんだ。立派な女の子だわ。素直すぎるのはどうかと思うけど、でもまぁコイツなりに気を使ってくれているのかと少しだけ気分が良くなりこれ以上言い返すのはやめ隣に並び帰路についた。



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