もっと楽しく食べたいよね




新開悠人に自転車の事を教えてほしいとお願いして、案外すんなりと承諾してくれたから良い奴なのかもと思ったのが間違いだった。教えるんだから昼飯よろしくとか言われてコイツはこういう奴なんだと思い出した。
くっそ、昼飯ってなんだよ。代価デカすぎじゃない?
渋々手ぶらの新開悠人と一緒に食堂へ行き、財布を片手に握り締めて自分のご飯を選ぶ。

「まだ決まんないの?」
「ちょっと待ってよ」

無難なランチも良いかもしれないけど凄く麺が食べたい。今日はお米の気分じゃない。でもランチに付いてるプリンも食べたい。普段菓子パンで済ませているせいで、いざ食堂に来るとこうやって悩んでしまうから嫌だ。とっくにランチを頼むと決めた新開悠人は後ろから「早くしろ」と言わんばかりに冷めた目で私を見ながら急かしてくる。寧ろ早くしろって言ってんのかこれ。

「……プリンも捨て難いけど、パスタにする」

うんうんと悩みに悩み抜いた結果、デザートのプリンは諦めてパスタを選び注文する。二人分のお金を払い何食わぬ顔で、ちゃっかり大盛りにされているランチを受け取る新開悠人を恨めしそうに見ていればスタスタと先に歩いて行ってしまう。なんだコイツ。頼んだらもう私は用無しって事か。
ご飯を奢る約束はしていたけど別に一緒に食べようだなんて約束をした訳でもないし、一緒に食べる必要もないから新開悠人が先に行こうが関係ない。そこまで考えて、まぁいいかと思い注文したパスタを受け取って空いている席を探すため歩き出した。意外と人が多いし空いてる席は疎らで入り込んだとしても隣の人と気不味くなって食べにくいかも、とご飯で悩んだ矢先に今度は座る席で悩む。こんな事なら新開悠人と食堂に行くと話した時に「え、じゃあ二人で行ってきなよ!」と無駄に要らない気を利かせた友人を無理矢理にでも連れて来るべきだった。

「なにしてんの」

散々聞き慣れた声が後ろから聞こえ、同時に腕を掴まれてビックリしながら振り返る。呆れたような顔で私を見ている新開悠人は一点を指差して「あそこ」と一言だけ言うとその席へと足を進めた。指が差された先には空席が二つと、片側には先程頼んだ大盛りランチが置いてある。大人しく後ろをついていき席に着けば何も言わない私にちらりと目を向けた。

「一緒に食べるんだ」
「は? なに、嫌なの?」
「嫌、ではないけど……」

手を合わせて小さく「いただきます」と言って箸を持つと味噌汁のお椀に手を伸ばして食べ始める。ちゃんといただきますが言えるんだ、とか箸の持ち方綺麗だな、とか関係無い事をふわふわと考えながら一緒に食べるとは思っていなかったと口にした。私の言葉に、じゃあなんなんだと訝しげな表情をする新開悠人は話しながらも次々とご飯を口に入れていく。

「先に行っちゃったから別々なのかと思っただけ」
「俺そんなに薄情な奴だと思ってるわけ?」

申し訳ないけどそんな奴だと思ってたよ。なんて口に出せるはずもなく、適当に誤魔化して自分も手を合わせてパスタを食べ始めた。いろいろ教えてもらっていた時は普通に会話していたのに、ご飯を一緒に食べるのはなんだか変な感じがして無言で黙々と食事を進めているこの状況に勝手に気不味くなっていく。
なるべく前は見ないようにしてパスタに集中していたけど、何故折角の昼休みで食事中にこんなに気を張らないといけないのかと疲れてきて不意に目の前のランチに目を向けてみると、もうお皿には何も残っていなくて綺麗に平らげられていた。え、食べるの早くない? って言うかご飯大盛りにしてなかったっけ?
さすが運動部とでも言うべきなのか。見た目が細い割に食べる量の多さと早さに驚き新開悠人を見ると、トレーに残っていたまだ開けられていないプリンを掴んで私の前に置く。

「……くれるの?」
「食べたかったんじゃないの」
「うん、そう、食べたかった」
「じゃあ食べれば?」

素っ気ない言い方だし表情だって優しさの欠片も感じられない。それでも私が散々悩んでいたのを気にして譲ってくれたのは素直に嬉しい。まぁ、私の奢りだから深く考えるとアレなんだけど。置かれたプリンを受け取ってほんの少し垣間見えた優しさに感謝はしておこうとお礼を言えば「ん」と、短く頷いた。

「食べ終わったなら待ってなくても良いよ?」

とっくに食べ終えて暇そうに携帯を弄る新開悠人に先に戻るように言うと携帯から顔を上げて私を見て溜め息を吐く。優しさのつもりで言ったのに人の顔見て溜め息吐くとか失礼すぎじゃない?

「置いてったらまた薄情な奴って思われそうだし」
「別に思ってないし」

ちっちゃい事を根に持つなよ。ちっちゃい男だな。くるくるとフォークに巻き付けたパスタを口に運び自分のペースで食べる私と、目の前で私が食べ終わるのを待っている新開悠人。ガヤガヤと楽しそうに会話をしている周りの光景と比べても、私達の空間はどう見ても絵面がおかしい。
やっとパスタを食べ終えて、譲ってもらったプリンの蓋を捲りスプーンで掬うとやたら視線を感じて顔を上げる。携帯を見ていたはずが、じっと私の方を見つめてくる新開悠人にめちゃくちゃ食べ難くなり手が止まってしまう。よく見れば私と言うより私の手元のプリンを見ているのでは? と気付き、スプーンで掬ったプリンを新開悠人の方へ向ける。

「一口あげようか?」
「はぁ!? 要らないし!」

良いからさっさと食えよ、と突然キレられて意味が分からず新開悠人に向けたスプーンの先を自分の口の中へと入れた。なに怒ってんのコイツ。実はプリン食べたかったんじゃなかったのか。そっぽを向いてしまった新開悠人の謎すぎる言動をスルーして、今はほんのり甘いプリンに舌鼓を打ち堪能する事にした。


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