早速近付いてみる



新開悠人には見に来るなと言われたけど、そんな事気にしない。だって別に新開悠人を見に来た訳じゃないし、私が何をしようとアイツには関係ない。

という訳で、早速翌日の放課後に自転車競技部の部室の近くへとこっそり覗きに来ている。流石に一人で見に来るのは心許無いのでしっかりガッシリ友人の腕を掴んで、ここまで着いてきてもらった。その結果明日のお昼は出費が高くつきそう。

「めっちゃかっこいい…」
「まぁ確かにカッコイイとは思うけど」
「あの身長ほんとやばい」
「あんた身長とカッコ良さ比例してんの?」

小学生の頃は足が速い子程カッコイイみたいな感覚だったけど、そう言いたいのか?別に身長だけで見てる訳じゃないし。顔だって整ってて加えて突撃した私に怪我の心配をしてくれる優しい心の持ち主だ。完璧すぎるだろ。

「あっ、新開くん出てきたよ」
「うわ、まじだ」

新開くん、という言葉を聞いて視線を動かせば葦木場さんよりも背丈の低い黒髪頭が目に入る。少し離れた所から歩いてきて葦木場さんの方へと近付くにつれて、その足が速まっていっている気がした。

「は?」

楽しそうな表情で葦木場さんに声をかけながらついて歩き、その光景は正にアイドルに群がるファンのようだ。それか親を追いかけて回るヒヨコ。いやまじで何あれ?本当に新開悠人なのか。私の知っているアイツはあんなのじゃないぞ。

「ねぇ、あれ誰?」
「新開くんだよ」
「いやいやいや、あんな顔見たことないし」
「いつもケンカばっかしてるからでしょ」

自分だって驚いた顔してたクセに。いつも見ている新開悠人の表情はムスッとしてて目は冷めきってる。それは確かに友人の言う通り私と言い合いをしている事が多いからなのかもしれないが、それにしても何だあの緩みきった顔は。

今まで見た事の無い新開悠人のゆっるゆるな表情に、唖然としながら見ていれば私達の視線に気付いたのか此方に顔を向ける。最悪だ、目が合ってしまった。

「げ、バレた」
「こっち来るよ」

私と目が合った瞬間に冷めきった表情に変わった新開悠人は体の向きを変えズンズンと音を鳴らしているかのように一歩一歩近付いてくる。

「ホントに見に来たんだ」
「別に邪魔してないから良いでしょ」
「……邪魔したら許さないから」

こえーよ。彼女かお前は。女子に人気の彼氏を持って周りに目を光らせるヒステリックな彼女か。

「悠人、お友達?」
「葦木場さん」

新開悠人が此方に来た事によって、葦木場さんも私達に気付いて近付いてきながら声を掛ける。ちょっと待って。こっそり眺めて帰るつもりだったし、葦木場さんと対面するなんて心の準備が出来てないから。

「女子が見に来るとか流石だなお前」
「…へ?いや、私は新開悠人を見に来た訳じゃなくて」
「あ?違うのか?」

昨日葦木場さんと一緒にいた、少し目付きの悪い先輩が私が新開悠人を見に来ていると勘違いして何故か感心したように言う。冗談でもそう思われるのは嫌だと否定した私の顔はきっと表情が死んでいると思う。新開悠人のファンだと思われるとか心外すぎるし、そんなに趣味は悪くない。

「あの、葦木場さんを……」
「君、昨日の子だよね?」
「覚えてくれてたんですか」
「うん、ぶつかっちゃってごめんね?」

ちょっと忘れてたっぽいけど思い出してくれた事が嬉しくて、ゆるゆるに緩みきった顔で喋る。謝りながら首を傾げる葦木場さんはやっぱりカッコ良くて優しい人だ。

「葦木場さんにそんな気持ち悪い顔見せないでくれる?」

いやマジでコイツ。恋する乙女に向かって、しかも葦木場さんの前で気持ち悪い顔とか言うなよバカ。いつもみたいに言い返したい気持ちは山々だけど、葦木場さんに口が悪いとこを見せたくなくて何も言えず押し黙る。うわ、私ほんとに乙女じゃん。

「悠人、女の子にそんな事言っちゃダメだよ」
「……っス」

優しすぎる。それしか言えないぐらいに葦木場さんは優しさに満ち溢れてるんじゃないか。女の子扱いしてもらえた事も歓喜の声をあげそうなレベルで嬉しくて舞い上がる。葦木場さんに注意をされた新開悠人は唇を尖らせてそっぽを向いている。いい気味だざまぁみろ。

その後私に顔を向けて「えっと……」と首を傾げる葦木場さんに、たぶん私の名前が分からないから困ってるんだろうと察知して自分の名前を伝える。「名前ちゃん」と名前を呼ばれ私のライフがギリギリになったところで、練習に戻ると言って手を振って部室の方へと戻って行ってしまった。

「やっぱ葦木場さんカッコよかったね」
「そう?」
「目大丈夫?」

寮に帰りながら浮かれたまま葦木場さんの話ばかりしていれば友人は葦木場の良さが分からないと言いたげで、あのカッコ良さが分からないだなんて目が可笑しいんじゃないかと問い掛け頭を叩かれた。

「だって新開くんも普通にカッコイイじゃん」

顔だけなら新開悠人も整っているしカッコイイ部類に入るのは分からなくもない。それでも見た目だけ良くたって中身か伴っていなければ意味がないんだよ。どう考えてもあんな奴より葦木場さんの方が王子様に間違いない。





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