夜に贈る物語



あの後志衣は泣き疲れて寝てしまった。その間に、非常事態で駆けつけた佐川さんと看護師さんたちがテキパキと点滴やら色々検査をしていた。
窓から落下したせいで出来た怪我はないらしいが、今後このような事がないように明日くらいに部屋を移動しましょうと言われた。
確かに2度とこんな事があったら心臓に悪いし、次も助けれるか分からない。

志衣の髪を梳きながら、さっきの事件を思い出すが、やっぱり肝が冷える。間に合って本当によかった。
ふと、志衣の顔を見ると眉間にシワが。

「ん……んー……」

「志衣?」

シーツをきゅっと握りながら、志衣は魘されている。名前を何度も読んでいるが起きる気配はない。揺すってみても同じだった。

「志衣、起きて志衣」

「ひっ…………お……うさ、ん」

また父さん。あの人は何処にいても何をしても志衣を追い詰めるのが好きらしい。
幻覚まで見て、夢にまで出るとは、志衣の中で父さんは根強い存在なのだろう。志衣の目尻から涙が落ちた。名前を呼んでも、揺すってもこの子は起きる気配がない。

「……仕方ない」

志衣の頬を軽く叩く。あまり叩くといった暴力は与えたくなかったが非常事態だ、許して志衣。
何度か叩いていたら、志衣の瞼がゆっくり開き始めた。

「志衣、起きた?。ごめんね、叩いて」

叩いてしまった頬を優しく撫でると、志衣は短い悲鳴をあげた。やはりまだ俺には慣れていないらしい、軽くショックだ。

「………にぃに…………な、で」

「ん?なんでここにいるかって?。志衣と一緒に寝たくて病院にお泊まりしちゃった」

「………僕と」

「そう。……志衣、魘されてたけど、怖い夢でも見たのかな」

夢の内容なんか予想はできる。志衣はきゅっと唇を噛み締めると、首を横に振った。嘘つきだな、志衣は。

「そっか。じゃあ、ごめんね?。魘されてたから勝手に起こしちゃって。……今度は俺と一緒に寝よう!」

そう俺は言うと、志衣の返答も聞かず、ベットに潜り込む。本当は嫌なんだろうな。小さな身体をもっと小さくしてる。でも、嘘をついた志衣の罰なんだ、ごめんね。

「にぃ、に!……ぼ、僕、床で「はい、こっちおいで」ひっ!」

志衣が何か言う前に、大事な弟を抱きしめる。もう逃げることも出来ない。カタカタと震えてるのが分かるが、もう少し我慢してもらうよ。

「志衣は温かいね。すぐ寝れそうだよ、ありがとう」

「……………僕、」

「俺の体温、そんなに高くないからあまり温かくないかな?。志衣、寝れそう?」

数秒間があったが、小さく志衣は頷いた。小さな手が俺の服を掴んでいるから、本当なんだろう。なら、よかった。

「よかった。……志衣、今度は怖い夢見ないように俺が守ってあげる。きっと志衣は幸せな夢が見れるよ」

「………っ、」

背中を一定のリズムで叩けば震えが止まり、肩に入った力が抜けたように見えた。大丈夫だよ、志衣。怖い夢はもう見ない。


「………こ、わい」

「……寝るのが怖い?夢を見るのが怖い?」

「ふ、つとも、こわい」

「そっか……。志衣、目を閉じて俺の体温だけ感じて。もし怖い夢みても俺が助ける、大丈夫」

「う……こわい、こわ、いよ」

壊れた玩具のように同じことを繰り返す志衣。
現実でも怖い思いをして、寝ても怖い思いをするのが当たり前だったのだろう。人は怖い思いをしたら同じことを繰り返すのを辞める生き物だ。
だけど、睡眠を取らないと辛くなる生き物でもある。

「志衣、ゆっくり息をして。………ん、そう、えらい偉い。寝たくないなら、もう少しお話しようか。んー、桃太郎って知ってる?」

志衣は首をゆっくり振った。まあ、そうだとは思った。絵本とか持っていれば読み聞かせたが、そんなものは持ってない。完璧に覚えてる昔話があって良かった。

「なら、桃太郎の話をしてあげる。むかーし、昔………」







「………すぅ……ん」

「寝てくれてよかった」

桃太郎の話が終わる頃に志衣は寝てしまった。桃太郎以外ちゃんと覚えてる話がないからよかった。
先ほどとは違い眉間にシワは出来ていない、穏やかな顔だ。うん、安心安心。

「………やっぱり志衣はあったかいな……」

優しく、志衣の存在が隠れるくらい抱きしめる。
大丈夫、守るから。だから、夢の中くらい怖い思いをしないで。



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