Light of only one hope


志衣said





目が覚めたら、真っ白な天井だった。
さっき起きた時は男の人が近くに居たはずだけど、もう傍に居なかった。あの人の名前はなんだったけ…。思い出せない、人の名前を忘れたなんて、お父さんにバレたらきっと痛いことをされてしまう。

「……っ」

ぎゅっと布団を握りしめ、目をきつく閉じる。何も見えない様に。
お父さんがここに来るまでに名前を思い出さないと……。







何分経ったかは分からないけど、凄く悩んだからかなりの時間が経ったと思う。かなりの時間をかけて思い出せたことは、あの人が僕のお兄さんだってことだけ。
全然実感は沸かない。僕が小さい頃にお母さんとお父さんはバラバラになったって、お父さんは言ってたけど、お兄さんの話は一回も出たことがない。だから、お兄さんの言ってたことは嘘なのかなって思うけど、

「………にぃに…」

何故かこの呼び名はしっくりくるのだ。
何でかはさっぱり分からないけど、にぃにと言葉を発すると胸の真ん中があったかく感じて安心する。魔法の言葉みたい。
もしお兄さんの話が嘘でも、この魔法の言葉は大事にしてたい。そして、もし本当にお兄さんが僕のお兄さんなら怖いけど、嬉しい気がする。

お父さんは怖いけど、優しくしてくれることがあるから好き。でも、一人の時が多いから、お兄さんがいたら僕は一人にならなくて済むかもしれない。そう考えたらぽかぽかしてきた。でも、

「お兄さんに、き、らわれ……たら」

それは二番目に怖いことだ。
一番目はお父さんに怒られること。二番目は、僕をぽかぽかにしてくれたお兄さんに嫌われてしまうのは嫌だ。まだ会ったばかりなのに変な感じだ。でも、嫌われるのは怖い。

お父さんと同じように『いい子』にしてたら嫌われないかな。アレは嫌いだけど、ぽかぽかの気持ちは嬉しい。なら、嫌われないようにするにはやるしかないのかもしれない。

「………がんば……れ、僕」

ぱちと軽く頬を叩き、自分を励ます。
頑張れ。頑張れ。嫌われないように、好かれたままでいるように。


僕は『家畜』らしくしなくては。




あったかな気持ちをくれた光を無くしたくない。






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