優しい決意と共に

志衣が疲れて眠ってしまった後、ベッドに運び、ナースコールを押した。看護師から、直ぐに綺麗にしますねと言いながら、何かあったら直ぐに押してくださいと注意されてしまった。愛想笑いを浮かべながら頷き、病室を後にする。

廊下にカツカツと靴音を響かせながら、さっきの志衣の態度について考える。
あの子には、死んだはずの父さんが見えている。幻覚なのは分かるが、幻覚症状を抱えてる人と触れ合うのは初めてだ。先ほどの対処でよかったのか不安は残るが、幻が見えるというのは精神的負荷が酷いときだ。数回言葉を交わしただけだが、感情の動きが少ない気がする。久しぶりに会った俺、兄に対して特に何も感情変化が見られなかった。驚きも感動も。まぁ、突然知らない人が現れたことの恐怖が大きかったのかもしれない。ずっと泣いてたし。
そして、父さんに言われ続けたせいなのか、自分を"家畜"と信じてる。


とりあえず専門家である志衣の担当医に話を聞いたほうがいいだろう。素人紛いの知識で判断するには大きすぎる件だから。












「お兄様が言う様にPTSDかもしれませんね。詳しく調べないとだんげんできませんが……」

志衣の担当医である佐川さんはそう言った。隣に控えてる看護師は気の毒そうな表情を浮かべている。

「そうですか…。後、もう少し志衣の状態を知りたいのですが、詳しく教えて貰えませんか?。さっきはあまりお話しできるほど落ち着いてなかったものですから」

面会が出来ると聞かされた俺は、医者の話をあまり聞かずに、面会の注意点だけ聞き、飛び出したようなものだった。今は志衣に会えたし、少しは落ち着いた。それに本人に会ったことで、何か言われても狼狽えない気がする。

「そうですね。…まず、聞いて楽しいモノではありません。もしかすると、お兄様である貴方でも気分を害するかもしれませんが、大丈夫ですか」

佐川さんは酷く険しい顔をした。きっと志衣が受けていたものは、酷いモノだろうと予想はしているが、医者にこんな顔をされては怖くなる。怖気図いて、"やっぱりやめます"と言っても、責めたりしてこないだろうが、今志衣の味方になってやれるのは俺だけだ。


いや、今じゃない。もっとずっと前からだ。


「はい。志衣に会った時から覚悟はできてます」


志衣と家族になったあの時から俺は志衣の味方で、綺麗に成長していく志衣に恋をした時から、守り通すと決めたんだ。
どんなに辛い過去があったとしても、これから先の志衣を守れるなら、お兄ちゃんは頑張ってみせるよ。







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