なんでもいいよ、何時か分かってくれたら。

今日の分の仕事を急いで終わらせ、再び病院へ。面会時間終了まで残り数十分。廊下を走るなと看護師に口酸っぱく言われたが、愛想笑いをしながら右から左へと流し、志衣の病室に直行した。
軽くノックをしてみたら、小さな悲鳴が部屋から聞こえた。驚いた志衣の声だと分かるが、また寝てなかったのかと少し心配になった。

「お邪魔するね、志衣?」

扉をスライドさせれば、布団に包まった志衣が怯えた目で俺を見ていた。顔色は何時もと同じ、真っ白な色をしていて体調に変化はなさそうだ。口元を緩ませ、志衣のベットの隣にある椅子に腰かける。小さく布団が震えてるのが見える。

「志衣、今日は寝れた?」

「ひっ…………えっと、…」

「ゆっくりでいいよ、焦らないで」

志衣は、下を向いたり、俺の目を見たり、視線が彷徨う。数回深呼吸をしたら、小さく頷いた。事実なのかは分からないが、少しでも寝てるならよかったと思う。

「なら、安心したよ。………志衣、昨日のことなんだけどね」

「…は、ぃ」

「志衣は怖いから目を合わせてるって言ったよね。俺ね、その理由をずっと考えてたんだ。…でも、全然分からなくて凄く焦った。志衣のこと知りたいのに分からないから焦った…悲しかった。だけど、俺の仕事を助けてくれる人に相談したらやっと答えが分かったんだ」

俺は志衣の目を見ながら話した。どんな事を感じてるのか分からないが、志衣も俺から目を離さない。怖いから俺を見てるかもしれない。でもいつか、俺が怖いと言う感情が薄れ、兄として見てくれる日が来ることを願う。だが、志衣からの信用を得るには俺が志衣の事を知らなくてはならない。これはその第一歩になるだろう。

「もしかしたら殴られるかもしれない…………、それが怖いから見てるんだよね。目を見てれば、上半身が見える。見えるなら、自分を守れるから。…違うかな?」

志衣は何も言わない。ただ目が大きく開かれた。
でも、合ってる合ってない関係なしに俺は志衣に言いたい事がある。


「俺は志衣を殴らない。俺の手は君を守るために使う。絶対に傷つけたりしないって約束する」


「……………と…?」

「え?」

「ほ、んと、?」

大きな瞳が潤み、顔を歪ませる。その目からは恐怖なんてものはなかった。寧ろ不安の色をしていた。

「本当だよ。ずっと志衣を守る」

「ほんと、に、ほんと?」

「本当に本当」

「う、そじゃない?」

「俺は嘘をつかないよ」

志衣は何度も何度も聞き返す。きっと信用していいのか分からないから。疑われてもいい、何時か分かってくれれば、何時か頼ってくれれば。

でもね、君のお兄ちゃんは少し強引だったりするんだ。


「ひゃ!?」

志衣の布団を引っ張り、俺と志衣の距離はゼロになる。
布団ごと抱きしめてるから、志衣が暴れても軽い痛みしか感じない。それに布団がなくても、どんなに暴れても離す気はなかった。


だって、志衣が泣きそうだから。



「今は信用できないかもしれないのは分かるけど、抱きしめさせて」

「や……なん」

「今頃感動の再会?みたいな。だから、俺、今から泣いちゃうからさ。泣いてるところ見られるのは恥ずかしいから抱きしめさせて」

「……………」

「ありがと、志衣。……兄弟の感動の再会だからね、志衣も泣きたいなら泣きな。泣いてるところ見ないから」

それだけ言うと、志衣の頭に顔を埋める。まだ俺と同じ匂いはしないが、一緒に暮らすんだ。いつか同じ匂いになるのかと思うと、嬉しくなる。大切な存在が腕の中にいることにも幸せを感じてるのに………本当俺は幸せ者だ。
目頭が熱くなり始めた。その時、背中に温かな腕が回って来た。

「………に、にぃ…んっ」

小さな嗚咽。でも気づかないふり。だって見えてない設定だから。
でも、これくらい許してくれるかなと思いながら、抱きしめる力を強くした。




少しは伝わったかな、俺は君を傷つけないって。









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