女装男子 | ナノ
女装男子、自己紹介をする。
色々鷹丘高校の状況を聞いてたら、他の先生が帰って来た。恭也先生は教頭に小言を言われてたけど、反省してる様な兆しがなく、ただ『はいはい』と流していた。少し教頭には同情したけど、俺にまでとばっちりがきていて辛い。
「小鳥遊さん、君は何故笹野先生が会議に出てないのを知っていながらも行かせなかったんですか」
「えっーと、あの、俺が注意しても仕方ないっていうか……」
「そもそも女の子の癖に俺という一人称はどういうことです。やっと女の子が二人になったかと思ったらまた問題児ですか」
「えー……」
一人称が俺だけで問題児ですか。巷の女子たちは皆、問題児ですかとか言ってやりたいけど、文句言うのも疲れてきた。恭也先生なんか、そっぽ向いて煙草吸ってるし。あんたのせいで怒られてるんだけど、俺。
「小鳥遊さん、聞いてますか?」
「あ、はい。聞いてます」
「もっとちゃんと返事なさい!」
「はいっ!!」
もうやだ、このおばあちゃん教頭。恭也先生も笑ってないで助けろと足を踏みつぶす。それが効いたのか
「教頭、HRの時間なんで俺らもう行きますわ」
「……そうですか。HRが終わったら、笹野先生お話があるのでまた」
「俺はないのでさようなら」
恭也先生はそう言うとそそくさと退散し始めたので、俺も後に続く。あんな終わり方でいいのか、後ろで教頭が何か騒いでるぞと思ってたのが伝わったのか、
「何時もああだからいいんだよ。後、飛鳥にまで怒鳴ってくるとは思ってなかったしよ。ごめんな」
ぽんっと頭に手を乗せ撫で回してくるけど、俺は教頭に怒られてる時恭也先生が意地悪に笑っていたことは忘れたりしないんだからなっ。
「じゃ、名前呼んだら入って来い」
「先生、お腹痛いから早退します」
「待て、自己紹介位我慢できるだろ」
帰ろうと歩き出したら首根っこ捕まえられた。本当は痛くなんかないけど、教室の外にまで漏れるクラスメイトになる人たちの声が怖くて帰りたい。帰れるなら実家がいいけど、それは母さんが許してくれないだろうから、寮に帰りたい。そして、俺は不登校児になる。
「無理、帰ります。帰らしてください」
「何だ生理か?、じゃあ、恭也先生直々に温めてy「早く教室に入ってください。逃げないんで」…素直じゃないなぁ」
と変態は教室へと入っていった。逃げ出したい。だって、不良だし、痛いのは嫌だしとか悶々考えてたら、教室の中から雄叫びが聞こえた。思わず飛び上がったよ。
何事かと教室の扉に耳を近づけたら
「せんせー!!、マジで女子!?」
「おーマジで女子だ。本校に二人目の女子だぞ」
「「「「「うっおしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」
耳を離したよ。いや、女の子が二人しかいないから、少なくとも男としては女の子が欲しいだろうなとか思ってたけど予想をうわまったよ。なんだよ、雄叫びとか。日常生活で早々聞かないよ、鳥肌たっちゃたしね!。
一回気持ちを落ち着かせて、今だに五月蠅い教室の扉に耳を近づける。
「その子、可愛い?それとも綺麗?」
「あー、可愛い系だな。髪留めひよこだし」
「ひよこ!?、今時ひよこかよ!?」
「でも、可愛い系なら月代とは真反対だな」
「俺、綺麗系より可愛い系の方がタイプだわ」
「何言ってんだよ、この前月代に振られたくせによ」
「うるせぇぇ!!!」
ふ、不良って律儀に告白なんかするんだ。しかも、月代さん、不良の告白を振るとか肝座り過ぎでしょ。俺なら怖くて逃げるか、頷くと思う。あと、今時ひよこかよとか言った奴、俺は絶対に許さないからな。俺も好きで付けてる訳じゃないんだよ、外すタイミングを逃したせいだからな。というか、母さんのせいだからな。
と、色々考えてたら教室の扉が開いて、変態とご対面。
「飛鳥、名前呼んだら入って来いって言ったろ」
「あ、す、すみません」
名前呼ばれてたのか。考え事してて聞いてなかった。慌てて扉と先生との隙間を潜り一回息を吐いた。あれ、そういえばここ教室?。焦ってたから取りあえず駆け込んだけど、そうだ、俺、自己紹介するためにあそこで待機してたんだ。
さーっと血の気が引いてく感じがした。出来ればこんな経験したくなかった。ロボットみたいに顔を机の方に向けたら緑色の髪の人が目の前にいた。マジものの不良だと高速処理した。お互い目があったまま三分くらい見つめてたと思う(多分実際は五秒程度)。勢いよく顔を背けたら、後で何されるのか分らないから、固まった表情筋を動かし笑ってみた。父さんが、学校で困った事があったら、笑いなさいって言ってたし、実際すごく困ってるし!。
「っっっっ!!!」
緑色の不良は顔を真っ赤に染めだした。
え、え、怒った!?。そんなに不気味な笑い方だったかな。寧ろ『笑うな、この野郎!!!』みたいな!?。うぇ、殴られんのかな。転校初日に殴られるとか、真面目に不登校児になってやるぞ。
「飛鳥、何固まってんだ。早くこっち来い」
と、教卓の前に立つ恭也先生に呼ばれ、がちがちに固まった足を動かす。本当はもう泣いて逃げ出してるけど。
先生の隣に立ち、チラッと前を見るとカラフルな髪の人たちと黒髪の人たちからの視線が刺さった。そんなに見ますかって叫びたいけど、そんな気量もないから一生懸命目を逸らすのに徹する。
先生はチョークを持ち、黒板に俺の名前を書く。そして、書き終わったら俺に
「ほら、自己紹介」
「ふぇ!?」
緊張のあまり変な声が出て、しかも結構大きな声だったから先生は兎も角、近くの不良も下を向いて肩を震えていた。同じ一般人だったら、アッパー食らわしてたよ。先生には足を踏みつけておいた。
でも、自己紹介。相手が不良じゃなくても緊張する。怖いけど前向いて名前言って、一言いえばいいと思って、勢いよく顔を上げ
「た、小鳥遊飛鳥でしゅ!!、よろしくお願いしましゅでしゅ!!!」
「「「…………………」」」
不登校児になろう。