女装男子 | ナノ
女装男子、担任と対面する。
クラスが分からないから、靴箱がどれか分からず、上履きを入れていた袋に土を落として靴を仕舞う。父さんから職員室の場所は何となく聞いてあるから迷わないと思うが、色々心配だ。
「でも、こんな朝早くに不良さんが登校してるとは思わないから一応安心……だよな」
朝のHRに間に合う様に来いとまだ名前も顔も知らない担任の言伝を父さんから聞いていたから、朝の七時に俺は登校した。というか、引っ越してきた。昨日の深夜三時に母さんに車に乗せられ、寝てたらここにいた。荷物はもう送ってあるから☆と笑顔で言い残し母さんは去っていた。色々展開が早すぎて、処理出来ないけど、まぁ帰れる所があるから良しとしよう。
一階の窓ガラスは全滅していたけど、廊下にはガラスの破片が一粒も落ちてない。きちんと掃除をしているのか、将また窓ガラスを取り付けるのを辞めたのかのどっちかだろうな。
「歩きやすいから構わないけど寒いって言ったらありゃしない」
ぶるぶる震えながら歩を進める。
そう言えば、今は人っ子一人と会ってないからいいけど、口調とか気をつけなきゃか。一人称とか。でも、興奮してたりしたら俺!とか言っちゃいそうだし、私って日常会話で使うのも気持ち悪い。
「………俺っ娘ってのはどうだろ。巷では俺って言う女子が多いらしいし……」
可愛いとか女の子らしいとか置いといて、元々俺って一人称で通せば墓穴を掘らなくて済むだろう。よし、俺って一人称で決定。もう口調とか、敬語とか使ってれば女の子っぽいだろ。目的の女の子だってお嬢様だろうし。
そんなこんな考えてたら目の前に職員室の扉。でも、物音一つしないんだけど、先生も出勤遅いの?。いや、会議とかあるから早いはずだし……会議に行ってるとか?。え、じゃあ担任いないじゃん。
「早く来いって言われたのに……」
居ないなら意味無い。でも、早く学校来てやることもないし、クラスわからんないし、手持ち無沙汰だ。それに、廊下で先生来るの待ってたとして、不良が現れたら困るし……。
よし、職員室の中で待ってよう。
テスト期間中って札も出てないし、勝手に入っていいだろ、一応呼び出しだし?。
「失礼しまーす」
三回ノックしてスライド式のドアを開ければ、しっーんとした職員室。やっぱり会議かなーと思い、辺りを見渡したら
「…………誰かいるし」
俺がいる所から対角線上に雑誌を頭に被せたまま座ってる先生らしき人がいた。
らしきってのは格好が先生っぽくないから。だって、何かネクタイ緩いし、かっこいいスーツみたいなの着てるし……先生よりホストに近い。それに、俺の中の危険人物警報機がガンガン鳴ってる。関わりたくない、本当関わりたくない。俺の中の危険人物は母さんと父さんとあいつだけでいい。
と、思ってたらホストがむくっと動き出した。雑誌を取り、俺を見つめてきた。
多分さっきの呟きが聞こえて起きたんだろう……静かにしてればよかった!!。
「あー、お前か。小鳥遊って女」
「女じゃっ……はい、小鳥遊ですけど」
思わずいつもの癖で女じゃないって言うところだった。危ない危ない、早速この(仮)危険人物にバレるところだったわ。
「ちょっとこっち来い」
手招きされ無視するにも出来ず、大人しく従う。でも、俺の名前知ってるってことはもしかしなくてもこいつが担任?。嫌だ、嘘だ、なんかもうジロジロこっちを見てくるし、何か舌で唇舐めてるし、もうヤバイだろ。ダメだ、担任とかダメだ。
「何震えてんだよ、そんな取って食う訳じゃねぇよ」
「……じゃあ、ジロジロ見んの辞めてくれませんか」
「無理。お前、いい体型してるし」
「キモイ、あっ、すみません。気持ち悪いです」
「おい、小鳥遊。謝罪になってないぞ」
思わず口が滑り出してた。
危険人物は睨んできたけど、直ぐに何か企んだ様にニヤと笑ってきた。おぉ、寒気に鳥肌が。
「俺は笹野恭也だ。飛鳥には特別に恭也先生(はぁと)って呼ばせてやる」
「そうですか、笹野先生」
「恭也先生」
「笹野「恭也」チッ……恭也先生」
「ほぼ初対面でこんなイケメンに舌打ちしてきたのはお前が初めてだ」
クソ最低な態度してるつもりなのに、何故か笹野恭也はすごく楽しそうだ。何故だ、気に入られフラグへし折るつもりなのに……。
それに、さっきまで小鳥遊呼びだったのに、飛鳥になってるんだけど?、どういうこと。
「良かったですね、初体験出来て」
「あぁ、生意気な女で遊ぶのは楽しそうだしな」
「さいですか、どうぞ俺じゃない誰かで楽しんでください」
「飛鳥じゃないとつまらないだろ。……一人称俺なんだな?、女の子らしくしろよ。可愛いんだから」
「残念ながら俺は可愛いよりかっこいい女の子を目指してるので」
やっぱり聞かれるだろうなと思ってたから、適当に理由を述べておいた。そした、笹野恭也は、ポカンとしたが直ぐに声を殺して笑い出した。俺、何か変な事言ったかな??。
笹野恭也は俺の頭を指差し
「そんな可愛い髪留めして、そんな事言われてもな」
「へ?」
髪を触ってみると拳くらいの髪留めが付いてた。俺はつけた覚えがないから、俺が寝てる時に母さんが勝手に付けたんだろうと思ったけど、可愛い髪留め?、一体どんなの付いてるんだ……。でも、ここで『どんな髪留めが付いてますか?』とか聞いたら変だよな……。恥ずかしいけど、話を合わせるしかないっ。
「えー、あー、好きなんですから仕方ないんです!」
「ひよこが好きなのか?」
「え?ひよこ?あ、はい。好きですよ?可愛いじゃないですか」
まさかのひよこ。拳くらいの大きさのひよこ。馬鹿か、小学生でもこんなの付けてる子供見たことないぞ、母さん。
それに、ひよこは可愛いとは思うけど、すごい好き!って訳じゃないし。俺は猫が好きです。
「ふーん、飛鳥はひよこ好きな」
と、笹野恭也は机から付箋を出して、『飛鳥はひよこ好き』とメモし、机に貼り付けていた。
「先生」
「恭也先生って言わねぇなら話す気ねぇから」
「……恭也先生」
「んー?」
こいつは餓鬼か。小学生か。面倒臭いと思ったのを顔に出すが、笹野恭也はそんなの関係ないねぇ!!って言うように俺を見つめてくる。
「それメモする必要あります?」
「あるある。今度のテストに出すから」
「それ職権乱用じゃないですか?」
俺の好き動物は何でしょう?って問題あったら、俺くらいしか答えられないだろ。本人だし。
「いいんだよ。でも、飛鳥、ちゃんと早めに来て偉い偉い」
と、笹野恭也は俺の髪を撫でてきた。
咄嗟の事で振り払う事も出来ず硬直。いや、だってさっきまで俺様臭してるのに、突然優しくなってきたんだぜ?、固まるわ!。まぁ、俺がギャップに弱いってのが一番の理由。
「おっ、大人しく撫でられるんだな」
「……いや、えっと……困ります」
「困ってるなら困り顔しろ。今のお前の顔は嬉しそうに見える」
へ?嬉しそうな顔?。口角が上がった気はしてないのに。
「あ、そういえば言うの忘れてたけど、飛鳥は二年四組な。俺が担任だから」
「はぁ」
「そこで困り顔するなよ、傷つく」
やっぱり担任か。もう何となく予感してたから辛すぎて涙が出そうだ。父さん、担任ミスしてますよって教えてやりたい。
「嫌ですけど恭也先生、一年間よろしくお願いします」
担任がこの人なのは激しく拒絶したいが、なってしまったのは仕方ないし変えられないから、諦めて挨拶しとく。前向きに考えれば、ここまで馴れ馴れしくしていいなら、ある意味楽かもしれないし。
お辞儀をして顔を上げれば、恭也先生は驚いた顔。でも、直ぐに笑って
「俺こそよろしくな。飛鳥」
この笑顔で少し高感度が上がったのは秘密にしておこう。
「恭也先生、ずっと気になってたんですけど、ほかの先生は?」
「飛鳥は俺の事だ考えてればいいんだよ」
「ほかの先生は?」
「俺の事だけ考えてれば「ほかの先生は?」………職員会議」
「じゃあ何で恭也先生はここに居るんですか」
「寝坊」
「屑ですか、恭也先生」