女装男子 | ナノ
女装男子、転入する。
「……どうしてこうなる」
目の前には落書きだらけの壁と割れてない窓ガラスがない状態の普通高校の鷹丘高校、別名不良の巣穴。背後は木、木、木……。自分の服装はブレザーの制服にリボンをし、膝上のスカート。
そして本日、高校二年の男子高校生である俺、小鳥遊飛鳥はこの不良高校に転入する。
分かっていると思うが、好きでこんな格好をしている訳じゃないし、一般ピーポーの俺が不良高校に行くはずはない、えぇ、断じてない。なのに何でこんな格好でこんな所にいるかは数か月前に遡る。
「ねぇ、飛鳥。僕と付き合って欲しいんだけど?」
「丁重にお断りする」
「飛鳥、付き合おうよ」
「遠慮する」
「じゃあ、結婚しようか」
「話飛びすぎだろ」
「答えはイエスとはいしかありません」
「肯定しか受け取る気ないな、貴様」
と、毎日毎日告白してきている俺が元々通っていた男子高校の校長の息子さん。因みに同い年。毎日よく飽きないなと思っていたが、こいつ以外の男子からも同じ事を言われ続け、いい加減呆れてきた。
産まれる前から女の子だと医者に看護師にも勘違いされ(結局男と言われたが)、大きくなっても女扱いは変わらず。寧ろ酷くなった気がしてならない。俺的には極一般的な顔をしているが、周りにはそう見えないらしい。
まぁ、それでも告白されるだけで後は普通。
でも、そんな平穏は簡単に壊れるもので、平穏が壊されたせいで俺はこの学校に居られなくなって中退しました、まる。でも、女扱いされるのは嫌いだったから、そんな高校とおさらばで来たのはよかった事かもしれないと、前向きに考えた。
そんでもって、俺の母さんが再婚した(父は俺が幼稚園の頃病に倒れた)。然も、再婚相手はとある高校の校長さん。なんと都合がいい。
新しい父さん、小早川祐介さん曰く、俺のお願い事聞いてくれたら転入試験を免除してあげるよと言ってくれて、転入試験をやるのがクソめんどくさかった俺はすぐさまやると頷いた。
「飛鳥ちゃんならそう言ってくれると思ったよ」
「父さん、チャン付けはやめてと言ってるじゃん」
「ん?何、飛鳥ちゃん」
「…何でもない。それで、母さんも呼んでそんなに大事なお願いなの?」
「うん、ねぇ小百合さん」
「大事なお願いよねぇ、祐介さん」
と、二人掛けのソファに座りながら、イチャイチャしてるのが俺の両親。そして俺は、床に正座している。向かいのソファに座ろうとしたら、母さんに床に座りなさい(はぁと)と威圧感ありで言われた為大人しく座った。母さんには頭が上がらないんですよ、はい。
「俺の学校が共学の普通高校なのは知っているよね」
「うん。県外の鷹丘高校っけ」
県外だから鷹丘高校がどんな学校なのか全然分かんないんだよな。父さんから、パンフは貰ったけど、パンフと本物が全然違うのはよくある事だし。
「うん。でも、残念な事に高校が潰されちゃうかもしれないんだよ」
「はぁ!?」
「潰されたら俺たち家族は路頭に迷うことになる。それは愛すべき家族の為にも避けたい」
「愛すべきですって。もぅ、私も祐介さんの事愛してるわよ」
「小百合さん……!!」
「祐介さん……!!」
と、息子の目の前でベロちゅーをするのはもう朝飯前だ。両親のキスシーン何か見たくもないし、ただおえってするけど、そんなこと言えない。だって、母さんが怖いんだもの。一度、息子の前でキスすんの辞めてと言ったら、母さんからキスされ挙句の果てに舌も絡めとられた。もうトラウマだね。そのせいで二週間は引きこもったぞ、俺。
まぁ、だから俺は一生懸命耳を塞ぎ、床の升目をガン見するのだ。
「んで、飛鳥ちゃん」
肩をぽんぽんと叩かれ顔を上げれば、先程のシーンなんか無かったかのように微笑む父さん。まだ、父さんと過ごした日々は少ないが
こんなに綺麗に微笑むのは絶対裏がある。背筋がぞわぞわするし。
「飛鳥ちゃんに俺の高校を救って欲しいんだ。それがお願い」
「………父さん、俺まだ17歳で学校の危機を助けれる程のお力なんか持ってないんですけど」
「大丈夫よー!。飛鳥は可愛いから大丈夫」
「母さん、可愛いで学校を救えるはずないでしょ。それに俺は可愛くありません」
「「飛鳥(ちゃん)は世界一可愛い!!」」
ぐいっと顔を近づけてきながら二人に言われましても……。
でも、俺は男だ。可愛いなんか言われて嬉しがる奴は早々居ないし、俺は嬉しくない。しかめっ面で両親を見ていれば
「潰れそうな原因は女の子が一人しかいないことなんだよ」
「……嫌な予感しかしないけど、それで?」
「何かその女の子が、この高校に沢山のお金をつぎ込んでくれてるご家庭でね?。その子がこの高校を辞めたら一瞬で潰れてしまう位そのご家庭に依存しちゃってるみたいなの」
「うん。それはもう父さんのせいだよね」
「いや、まともに学費を払ってくれない生徒が悪い」
はぁと溜息をついてる父さん。
でも、一人の生徒の学費で運営してるなんて、その子の家族どんだけ父さんの学校につぎ込んでるんだよ。
「じゃあ、もしかしてその子が学校辞めようとしてるの?」
「流石飛鳥ちゃん、正解だよ!」
と、父さんは子供扱いする様に頭を撫で回してくる。バシッと手を叩けば、しょぼんとしながら俺を見つめてくるけど無視無視。
「で、その子を辞めさせない様にして欲しいの?俺に?」
「そうなんだよ、飛鳥ちゃんにしかできない」
「何で俺だけなんだよ」
「だってね、飛鳥。その子が辞める理由が女の子の友達が欲しいって事だからよ」
「………父さん、母さん。俺、男」
「知ってるよ」
「知ってるわよ?」
「その子が欲しいのは女の子の友達でしょ?俺、関係ないじゃん」
ジト目で両親を見つめてるが、二人とも何ともない様にキラッキラした目で親指を立てて来た。その親指、逆方向に捻ってやろうか。
「と言うか、共学なんでしょ?。何で女の子一人しかいないの」
ずっと気になっていた事を父さんに聞けば、真っ青な顔をして頭を抱えだした。え、何。俺、地雷を踏んだの?。
「祐介さん……。飛鳥、鷹丘高校はね、不良高校になっちゃったのよ」
「へ?」
「不良よ、不良。不良が集まるから、一般生徒は怖がっちゃって退学したり、不良が暴力振ったりして評判はガタ落ちなの」
「不良?え、あの不良?」
「他に不良っているのかしら?」
今度は俺が青くなる番だった。
え、不良?、本気で不良?。そんな不良が集まる所に一般ピーポーの俺を投げこもうってしてるのかこの親は!?。
「評判落ちてる所に、救世主の女の子が現れてぎりぎり立ち直ったんだけど、その子が辞めようとしてるでしょ?」
「……う、うん」
「辞める理由が女の子の友達が欲しい。でも、不良が集まる所に女の子が転校または進学してくる筈がないの。でも、新たな救世主が貴方よ、飛鳥!」
「………………ごめん、話読めない」
「だーかーら、飛鳥が女装して転校して、その子と友達になれば万事解決って理由よ!。ということなので、はい、これ制服」
と、母さんは何処から出したのか制服一式を出してきた。しかも、ブレザーにリボン。そして、スカート。
たっぷり五分見つめ、
「家出します」
答えはこれだ。
馬鹿か!男が女装して、不良高校に転入?。この両親の頭のイカレ具合は元々知ってたけど、ここまでネジぶっ飛んでるとは思わなかった。
立ち上がって家出の準備をしようとある気だそうとしたら
「飛鳥ちゃん!俺のお願い聞いてくれるって言ったよね?」
バシッといつの間にか回復していた父さんが俺の腕を掴んでいた。
確かに言った、でもことが事だ。
「言ったけど嫌です、絶対に」
「………男の癖に約束を破るとは男の風上にもおけないね。あ、飛鳥ちゃんは女の子だったっけ?なら、約束破ってもしょうがないと思うけど、それって人としてどうなのかな?ねぇ、小百合さん」
「本当そうよね。私、こんな子供育てた覚えはないわ、ねぇ、飛鳥?」
「ごめんなさい、俺が間違ってました」
二人のブラックオーラに負けたのは言われるまでもない。
そして、俺は両親の陰謀によりここ鷹丘高校に転入手続きをされ、ウィッグだと髪触られて外れたら困るからと髪を切るのを禁じられ、襟足に付くくらい伸びた髪で、然も県外だからと鷹丘高校に隣接する寮に勝手に入居することになり、今俺は鷹丘高校の校門前に佇んでいる。
「不良高校とは聞いてたけど、こんなに山奥じゃ普通の子も通うの大変じゃないかな……」
鷹丘高校は山の頂上を切り開いて作られてるみたいで、街に行くのに一時間は掛かるらしい。これじゃ、登下校するのにも大変だろ。寮があっても、高校で寮で生活するのも面倒だし。
「まぁ、でも流石不良。割れてないガラスは一枚もない辺りが流石としか言えない」
冬だと冷たい風が吹きさらしだろ、これ。寒がりの俺は、ここじゃ冬は越せないなと静かに諦めた。因みに今は四月。前の高校を辞めたのが去年の冬だったから、キリがいいから二年からの転入だ。
「とりあえず行こう、まずは職員室」
意を決し、スカートを傍目かして校門を潜る。
あぁ、スカートだけは慣れない、慣れたくないな。