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先輩に見えない人
水の音が聞こえた。煩わしくて意識が浮上した。体感的にそんなに寝てない気がする。然も俺は寝起きが悪い。自力で起きたなら機嫌はまだいい方だが、誰かに起こされたり、周りが煩くて起きたとかなら話は別。
舌打ちを一つし、頭を掻く。あー、眉間に皺が寄ってるのが分かる。でも、苛々する。水の音がする所を探すため、辺りを見渡したが水が関係するものも、人もいない。なんだ、幻聴かなんかで起きたのかよ、俺。そしたら、自分が悪いやん。溜息を溢し、視線を下げたら、
「……ブランケット??」
茶色い柔らかな手触りのブランケットが、俺の腹に掛けられていた。こんなもの持ってもないし、何も掛けずに寝たのは覚えている。なのにこれが此処にあるって事は、誰かが掛けたってことで。
…林がこんな洒落たことするはずないし、他の奴らもするとは思えない。寧ろ起こしてくるだろう。不良じゃない奴らは俺のことを避けてくるから論外だし。
じゃあ、誰だ。
「………誰でもいいか。めんどくせ」
考えることを放棄して、適当にブランケットを畳み、ベンチに置いておく。ここに置いておけば持ち主も分かるだろう。よっこらっしょと爺臭く言いながら立ち上がり伸びを一つ。起きちまったし、眠気もどこかに行ってしまった。しょうがないから林の所に戻るか。
来た道を戻りながら、温室を見渡すがやっぱり誰もいない。でも、花には水を掛けられてるようで陽の光に反射して光っていた。温室を管理している人が水をあげていったのか、まぁ誰かしらここを管理してないはずはないのは知ってる。枯れてる花はないし、落ち葉一つもないから。じゃあ、あのブランケットはその管理人が掛けてくれてったのかもな。パタパタと歩きながら考えてたらか、背後に近づく足音に気づかなかった。
「あのー」
「うおっ!?」
突然聞いた事もない声が背後から聞こえて、思わず飛び上がる。こんなに吃驚したのは久しぶりで心臓に悪い。恐る恐る振り向けば、俺より少し背が低い男が申し訳なさそうな顔で立っていた。
「驚かせてしまってすみません。俺は楠木 波那(くすのき はな)って言います。貴方は先ほどまであそこのベンチで寝てた方ですか?」
「……あ、あぁ。俺だけど」
「よかった!。俺もあそこで寝るの好きなんで同じ所で寝てる人がいて嬉しくてっ。あ、ブランケット畳んで下さってありがとうございます。後、あそこ温かいですけど、何か掛けて寝ないと風邪引いちゃいますよ。えと、後、「ちょっとストップ」はい??」
男、楠木波那っていう奴はマシンガントーク並みにガンガン喋りだした。俺たちって初対面だよな……うん、こんな奴知らないし………見るからにひょろいから不良じゃなさそうだし。そもそも。
「えっと、どうしたんですか?」
「俺が誰だか知ってんの?」
一番最初に言ったが、この学校じゃ有名な不良だし、一般人が好き好んで近づいてくることもないし、増しては話しかけてくることもない。学校で一ヤバい不良、怖い不良って言われてるよと林に馬鹿にされたこともある。なのにこいつはこんなにガンガン話掛けてきて………実は不良とか…??。
「………有名人さんでしたか??。俺のクラスメイトではないと思うんですけど」
あ、こいつ不良じゃないわ。
「いや何でもない、忘れろ。えっと、俺は錦綴。二年生」
「あ、じゃあ俺の方が先輩ですね。俺は三年生です」
「………三年生??」
まさかの先輩。強面って言われる俺だから思うだけかもしれないが、こいつ童顔…幼い顔してるから一年かと思った。雰囲気もふっわふわしてるし。
「あ、三年生に見えないとか思ってますか??。これでも園芸部の部長さんでここの管理も任されてるんですよ!!」
効果音でえっへんと書かれてるような態度で言ってくる先輩。口には出さないが、やっぱり先輩には見えない。
だが、
「…先輩がここの管理してるんすか」
「そうですよ。俺が一人で管理してます!」
「………一人って他の部員はやってないんすか」
「………」
先輩はハッとした顔をすると、急に萎れた。効果音で表すとしょぼんだ。
「俺が知ってる中で園芸部って聞いたことがないんすけど、関係してます?」
「………園芸部はあるからね!!ただ部員が俺しかいないだけだから!!」
それって部活なんかな……。
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