花びらに願う事




「んー!、晴れてよかったね、志衣」

目線を下げれば、植物図鑑を抱きしめ、もう片方の手で俺の裾を握りしめてる志衣が不思議そうに辺りを見渡していた。今、俺たちは近隣で一番の花見スポットに来ている。行くと決めてから、三日程経ってしまったがまだ桜は満開で一安心だ。満開故に花見に来ている人たちは多く、ガヤガヤと賑わせていた。志衣にとって、こんなに人が多い所に来るのは三度目で少し慣れたようだが、まだ怖いらしく植物図鑑と俺の裾を強く握りしめている。

「…おんぶしよっか」

志衣と同じ背丈にしゃがみ、目を合わせる。だが、視線が定まらず辺りをきょろきょろ。これは大丈夫なのか。

「しーい?」

ぽんっと髪を撫でたら、びくっと志衣の身体が飛び上がる。目の前にいたのに、見えてなかったらしく少し驚いたようで、目をパチパチと瞬きをしていた。ちょっとショック。

「あ……にぃ、に」

「驚いた?。…怖いならおんぶしよっか?」

志衣はゆっくりと首を横に振った。珍しい、人が多い所苦手なのに。志衣は再び辺りを見渡した。今更だが何を見てるのだろうと、志衣の視線を追えば

「………あぁ、桜の花びらか」

風で舞う花びらを追っていたらしい。だが、沢山舞ってるから視線がきょろきょろと動きっぱなし。微笑ましくて少し笑ったが、当の本人は花びらを追うのに一生懸命で俺の笑い声なんて聞こえてないらしい。
ふわふわと舞っていた桜の花びらを地面に落ちる前に捕まえる。志衣はそんな俺の姿を見てたらしく花びらと俺を交互に見ていた。

「はい、プレゼント」

「い、いの?」

「いいよ。志衣の為に取ったからね」

俺の裾を掴んでる手を離し、その手のひらに花びらを落とす。

「わぁ……!!」

「喜んでくれてよかった」

「…にぃに、これ、さ、くら?」

「そうだよ。桜には花びらが五枚あってね、その一枚。風が強いと一枚一枚取れてこうやって舞うんだよ、綺麗でしょ?」

志衣はブンブンと首が取れそうになるくらい縦に振る。星屑の様に目を輝かせながら。俺としては桜も綺麗だけど、蜂蜜を溢した様な甘く輝かせる瞳の志衣の方が綺麗だと思う。俺が取った花びらをじっと見ながらいる志衣、そんなに面白いかなって観察していたら

「にぃに、これ、にぃに…」

「ん?。志衣にあげるって」

「だめ」

今度は志衣が俺の手を取って、花びらを俺に渡してくる。あれ、気にいったんじゃなかったのかな。んーと首を傾げてたら、志衣が図鑑を開いてこの前見せてくれた桜のページを再び見せてくれた。

「………にぃに、の…おね、が、い、ごと」

「お願い事?」

志衣はとある一文を指さしながら俺にそう言った。文に目を通したら、『地面に落ちる前に花びらをキャッチ出来たらお願い事が叶うかも!!』と読み仮名付きで書かれていた。その読み仮名は見覚えがある字で、多分昨日来た吉野が書いたのだろう。……何故俺に頼まないんだ志衣…!と少しもやっとした気持ちになりながらも、志衣の言いたいことを考える。花びらをキャッチすることが願いが叶うおまじないの一種か何かだろう。それを信じてる志衣が花びらを捕まえた俺に返してきたってことか。

「んー、俺のお願い事は志衣のお願い事が叶う事だから、花びらは志衣が持っててよ」

「だ、め!。にぃに、のおねがいごと……僕、ち、がう」

「違わないよ。俺のお願い事は志衣のこと。だから、花びらは志衣が持ってて欲しいな」

「……っ」

志衣は少し迷った雰囲気になったが、結局首を横に振る。地味に頑固なんだよな、俺の可愛い弟は。これは俺が折れるしかないかと、諦めて花びらをポケットに入れる。そうすれば志衣は、安心した様でふわっと笑った。そんな可愛い顔されたら、何も言えなくなるのに。本当この子は。

「小悪魔だよなぁ」

「…?。こ、あくま?」

「気にしないで、志衣。あ、何食べよっか。あっちに出店があったから買いに行こう。食べながら桜を見た方が楽しいよ」

こくんと小さく頷く志衣の脇に手通し、抱っこする。志衣は少し驚いたようだが、直ぐに何時もの様に俺の首に腕を回した。




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