初めてを一緒に



凛様からのリクエスト、本編『酸素の共有』の番外編です。時間軸としては志衣が退院して初めての春を迎える辺りです。
何時もより糖度高めです。









「……にぃに」

「ん?どうしたの?」

リビングで新聞を読んでいたら、ちょこちょこと近づいてきた志衣に話しかけられた。最初の頃は自分から話しかけてくることなんかなくて、何時も怖がってたのに、俺に慣れてきたのか自分から話しかけれるくらいまでになった。でもまだ、慣れてきてるのは俺だけらしく、吉野にはまだ怯えてるけど。まぁ、小動物みたいで可愛いなと思うから良しとする。
志衣の手にはこの前プレゼントした、植物図鑑があった。外の世界をあまり知らなくて、字もあまり読めない志衣にとって写真だけでも楽しめる図鑑は愛読書らしい。だから、最近の俺からのプレゼントは殆ど図鑑ばかりだ。
新聞を畳み、隣に置くと志衣はゆっくりと図鑑を開いてとあるページを俺に見せてきた。

「…えっと、桜?」

「さ、くらって言うの?」

「そうだよ。この薄ピンク色の花が桜でこっちの濃いピンクが梅っていう花。丁度今の時期に満開…沢山咲くんだよ」

志衣は俺の説明を聞くと再び図鑑に目を落とした。その目は誰よりもキラキラ輝いていてとても綺麗だ。

「さくら…と、うめ………」

「因みに桜を見ながら外でご飯食べたりするんだよ。それをお花見って言うね」

「………にぃにも、食べる、の?」

「んー、一人でご飯食べるのも寂しいからね。あんまりやらないかな」

「そう、な、の」

吉野とお花見するのも味気ないし、他に誘って花見をしたい訳でもない。TVで満開情報を聞いて、もうそんな時期かーと言って終わるだけだった。そう思うと俺、寂しい奴なのかもしれない……。
志衣はじっと桜を見続ける。可愛し、綺麗な花だから気に入ったのかな。……そう言えば。

「志衣、ここ座って?」

ぽんぽんと膝を叩けば、図鑑をぎゅっと抱きながら近づいてきた。志衣の脇に手を入れ、俺の膝に座らせた。机の上に置いてあるTVのリモコンを手に取る。

「えっと、ニュースはどこでやってる」

ポチポチと押してると、志衣は俺が何をしたいのか分からないらしく、じっと俺を見ながら首を傾げてる。

「あったあった。ほら、志衣、桜だよ」

「………っ!」

TVを指させば、そこには桜満開のニュース。色んな人が花見をして騒いでるシーンが映った。志衣は人より桜をじっと見ながら、キラキラ目を輝かせる。何となく図鑑を持つ手に力が入ってる気がする。志衣が退院してから様々なものを見せたり体験させてるつもりだが、流石に季節に関わるものはまだだった。
桜前線情報を聞けば、俺たちが住んでる所はもう満開だったらしく、今週中に見に行くのがいいらしい。
なら、やることはひとつ。

「志衣、お花見しよっか」

「………お、はなみ」

勢いよく顔を俺に向けて、俺の言葉が嬉しかったのか頬を赤らめてふんわり笑った。もう可愛いすぎ、と俺は志衣を抱きしめた。



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