ああだって、大好きだから



何時間経ったのか。実際は何十分程度かもしれない。だが、時間感覚が狂うくらい俺は疲弊していた。身体的にも精神的にも。
唇は紅く腫れ、ヒリヒリと痛む。しかも口元は俺のと林の涎でベタベタ。俺のネクタイなんか簡単に解かれ、多分ベンチの下に落ちているんだろうけど、もうどうでも良く、シャツははだけさせられ、弄られて遊ばれた乳首も真っ赤。最初は痛かっただけなのに、今はゾクゾクと背筋が痒くなる。林はそんな俺の態度が嬉しいらしく、楽しそうに俺で遊ぶ。首も鎖骨も腹も腰もコイツにマーキングされた。
友人で喧嘩仲間で、信用はしていた。だが、こんなことされて許すことができるほど、俺は優しくないし、今とてつもなく風呂に入りたいし、辞めろと叫びたい。でも、男に犯されるってことがこんなにも怖いことと知らなくて、言葉が上手く紡げない。

「つーづり、もっと暴れてよ。綴らしくない。まぁ、大人しい綴も可愛いからいいんだけどね」

「ひっ…はっ、は、やめ」

虚勢を張って睨みつけても、林は何とも感じない、寧ろ可愛いと俺に言う。足をバタバタと動かしても、乳首をギュッと摘まれたら痛いような気持ちいいような変な感情が襲う。

「でも、綴がここまで感じやすいなんて知らなかったなー。………さぁて、メインディッシュ行きますか」

「っ!!、辞めろ!」

メインディッシュが何なのか、どんな馬鹿でも分かるだろう。ベルトに伸びてくる林の手を振りほどきたくて、足や、身体を動かして妨害してもカチャカチャとベルトを解かれる。最後の砦である、チャックをゆっくりと下ろされる。

「やだ、やめろ、俺が、何したっていうんだよ!!」

「何もしてないよ。そうだね、俺が、綴のことが大好きなだけ」

大好きだとこんなことされるのか。好きって感情はこんなことをさせるのか。涙でぐちゃぐちゃな視界で、林は嗤う。絶望的で、もうむりで、どうしようもなくて、でも諦めきれなくて、気持ち悪くて。

禄に叫ぶ声が出来なかった声が最後の力を振り絞った。

「助けて!!!!」







「俺の大事な後輩、虐めないでくれる?」

「は?」

あの時呼んだ人の声が聞こえた。絶望的な状況から生まれた幻聴かと思った。でも、林にも聞こえたらしく、林も声がした方に顔を向けた。
そこには何時も通りへらっとふにゃけた笑い方をしてる先輩がいた。目の前に犯されかけてる人がいるにも関わらず、笑ってる先輩が場違い感を出してる。

「なぁーに、お邪魔虫ー?」

そんな先輩の態度に林は余裕を持ったのか、初めて俺の上から退いた。重さがなくなり、やっと自由になったと感じたが、今までの恐怖のせいで間抜けにも腰が抜けていた。おかけでこんな逃げるチャンスが出来たのに逃げることも出来ず、林の背中を見守るしか出来なかった。
林はゆっくりと先輩に近づく。

「お邪魔虫?。お邪魔虫はそっちでしょ?。だって、ここは園芸部のための温室だよ?」

「へー、そーなの。でも、今の状況分かる?。俺は綴を美味しく頂こうとしてたの、それをあんたが邪魔をした。あんたの方がお邪魔虫でしょ?」

「頂く?。綴くんは食べ物じゃないよ」

真面目な声で先輩はそう言った。何時もの冷静な俺なら、美味しく頂くってそういう意味じゃないから、性的な意味だからとか言うんだろうけど、冷静じゃないし、林の雰囲気が変わった。この雰囲気の時の林はガチ切れした時だ。あんなことされても、喧嘩仲間だった事実は変わらないのだから、林が何をしたいのかくらい分かってしまう。

「せ、先輩!逃げろ!」

「へ?」

「遅いよ」

林の右手側引かれた。狙っているのは先輩の顔。
逃げろと叫んだが、あのぽやぽや先輩が一瞬出理解する訳なく、間抜けな言葉を発した一瞬だった。
思わず目をぎゅっと閉じた。俺のせいで巻き込んだくせに、先輩が林に殴られる瞬間が見たくなくて、逃げて。


「…………………あれ」

何時まで経っても、あの人が殴られる音が聞こえない。ゆっくりと瞼を開けた。そこには

「もー、今時の不良さんはすぐ殴る。カルシウムとった方がいいよ」

と、パンパンと両手の叩いてる先輩が立っていた。パッと見、どこも怪我しているところがなくて安心はしたが、あの至近距離で林のパンチを避けれるって反射神経良かったのか?と思ったが、

「は、林?!」

先輩の足元に林が倒れていた。
え?あの一瞬で何があった?。先輩が立っていて、林が倒れたってことは先輩が勝ったってこと……あの先輩が!?。

「綴くん、どうしたの?」

今度は先輩が近づいてきた。何時も先輩で、俺と同じくらい強いはずの林を倒した先輩が。

「…………先輩が林をやっつけたんすか?」

「ん?あー、殺してないよ!。ちょっと首に手刀で、ね!」

ほにゃとした笑い方でいう先輩だが、何故か背筋がゾクッとした。マヌケでドジな先輩と思っていたが、実際は違ったというギャップが強すぎて頭の整理が追いつかない。そんな俺を先輩はほっといて、せっせと俺の制服を整えて、手首に結ばれたネクタイを解いてくれた。

「あ、ありがとうございます」

「いーえ。手首擦れてるから消毒くらいした方がいいかも。…保健室いける?」

「へ?あ、行ける」

結構暴れたからそのせいで擦れたのだろう。気がついたら痛みがきて、顔を顰める。先輩の言うとおり、消毒しに行くか。林は………放置。怖いから。
と、考えながら身体を起こそうと思ったが、

「…………そうだった、腰抜けたんだった」

腰が抜けてて動けなかった。思わず両手でかおを覆った。ダサいとか色々あるけど、先輩にこんな姿を見せたのが意外にもショックで顔を見れなかった。俺より襲われそうな感じなのに、俺が襲われるって笑い話だよなと改めて考える。
そんなこと考えてた、先輩の笑い声が聞こえた。何時もと同じ柔らかな笑い声。指の隙間から伺えば、優しく笑う先輩が見えた。

「やっと綴くんの可愛いとこ見れた。よし、記念に俺が運んであげる!」

「は?俺より身長低いくせにって、うわっ!」

軽々と言ってもいいくらい簡単に先輩は俺を抱っこした。……あぁ、お姫様抱っこだ。これって男が女にやるもんなのに、しかもこんな先輩にされた。林に犯されかけたという屈辱と同じくらいの屈辱をまた味わられされた。降ろせと叫んでも、動けないならしょうがないでしょーと笑う先輩。暴れたくても腰が抜けてて暴れることも出来ない俺。

「…いっそ殺して欲しい」

「えー、綴もくんが死ぬのはやだな」

「うるせぇ……死にたい」

当分立ち直れそうにない傷を負った。色々と。とりあえず温室には近づくのやめよう。林と先輩に近づくのも。色々傷を抉られる。

「ねぇねぇ、綴くん。今、俺に近づくの辞めようとか考えてる?」

「先輩は人の心が読めんのかよ」

そんなわけないじゃんとこの人は笑うけど、俺にとっては笑い事じゃない。考えてることが読まれるって嫌なことだが、読まれても近づくのを辞めることは変わらない。チッと舌打ちをしたら、頭上でまた笑い声。

「あーあ、折角慰めてあげようと思ったのに、そんなこと考えてたなんてお仕置きしなきゃいけないよねー」

「…………………は?」

再び背筋がゾクッとした気がした。だが、林の時みたいに恐怖心とかではなく、驚きの方が強かった。

「今、お仕置きって変な言葉聞こえたんだが」

「気のせいだよー。あ、保健室着くよ」

と、流されてしまっては深追いするほどの勇気はなく、聞かなかったことにしようと心に決めた。
先輩の言うとおり、もう保健室の扉を見えており、やっとこの屈辱な体勢からおさらばできると力抜ける。…………そう言えば、先輩のおかげで助かったが、ジャストタイミングだったよな?。それに先輩は好き好んで面倒事に絡みに行くような人じゃないのは分かっていた。なのに、俺を助けた。知り合いだからってのもあるだろうが、なんかこうモヤっとする。

「先輩」

「んー?」

「……質問なんだが、何で俺のこと助けた?。あんた面倒事嫌いじゃんか」

「………………綴くんって鈍い?」

「あんたに一番言われたくない」

「えー、綴くんの方が鈍いよ。だって」

先輩はリスみたいに頬を膨らませて、こう言った。



「綴くんのこと大好きなんだから助けるに決まってるじゃん」

「は?」



本日何度目の間抜けな声だろう。
本日何度目の告白だろう。

林からあの時何度も言われた言葉だった。あの時は嬉しくもないし、ただ気持ち悪かった。でも、先輩がは?。今、俺は何を感じてる?。


「綴くんが鈍いって分かったから、もう俺本気出しちゃうからね!」

と、何処か張り切ってる声が聞こえたが、俺は頬に集まる熱を冷ますのに必死だった。









やばい、林が言ってたこと何となく理解したかもしれない。







end(?)

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