花が枯れる音



「……今日も先輩いねぇのか」

林の尋問を無視し、やっとのことで温室に来てみたが先輩がいなかった。先輩がドジやった形跡もないから、まだ来ていないのはすぐに分かった。とりあえず花の水やりでもやっておくかと思いながら、如雨露を手にする。
少し残念に思った気持ちに蓋をしながら。


水やりと言っても数十分で終わってしまう。全部の花に水やりをやったが、先輩はまだ来なかった。こういう時連絡先知っていたら便利だよな、来たら聞いておこうと考えながら、久しぶりにお気に入りのベンチに腰掛ける。水やり以外何していいのか分からないから暇でしょうがない。暇なら寝るしかないよなと、ベンチに寝っ転がりそのまま寝る体勢に。

「おやすみ」

あの時のように誰もいないのに挨拶をした。










腹が重い。突然の圧迫感に意識が浮上した。何だ、何が乗ってる。先輩だとしてもタダじゃおかない……あの人がこんなことするとは思えないけど。だが、安らかな睡眠を妨害されるのが一番嫌いだ。舌打ちを一つ零し、目を開ける。目の前に写ったのは、

「……………降りろよ、林」

ニンマリと不気味に笑う林が乗っていた。

「ここにいたんだ、つーづり。ずぅぅうっと探してたんだよ」

「そーかよ、降りろ」

「綴は何時も俺を無視して、傍にいてって言ってもどっか行っちゃう。俺、寂しい」

「……文句は後で聞くから降りろよ。いい加減重い」

降りろと言っても林は動こうとしない。林の指が俺の腹から胸へ、胸から首へ、そして頬へと動く。その触り方は友人に触れるような感じがしない、寧ろ熱が篭った触り方だった。気持ち悪い。振り払おうと手を動かそうとした…が、

「……これ、結んだの林か?」

「そー、正解。じゃないと綴、暴れるでしょ?」

さも当たり前ように笑う林。
俺の両手は頭上で纏められ、ネクタイで縛られていた。俺のネクタイは首元にあるから、これは林かと何処か他人事のように考える。実際はただヤバイの一言。手は使えない。足も林が腹の上で座ってるから動かせない。イコール俺は何も出来ない状態。
温室は安全という勝手な思い込みのせいか、全くというほど警戒してなかった俺が悪かったと今更後悔してももう遅い。林は不気味に笑い続ける。

「俺、知ってるよ」

「何を」

「綴が楠木波那のことが好きなこと」

「……………は?」

不気味に笑う林が発した言葉は訳が分からないことだった。俺が?あの先輩を?好き?は?。全くもってそんな感情を持っていなかった俺にそんな事言われても、頭上にはてなマークが飛ぶに決まってる。今、俺は間抜けな顔をしてるだろう。それぐらい突拍子もない言葉だった。

「俺があの先輩のことを好き?。人としては好きだが、林がいう好きは違うんだよな……?」

「当たり前じゃん。恋愛かんじょーの方」

「そんな感情、あの先輩に向けたこと一回もないぞ。何、勘違いしてんだ、お前。……つか、何で先輩の事知ってんだよ」

「むふふ、何でだろうねー?。でも、その人のこと心配するってやっぱり好きなんでしょ?」

と、俺が否定しても林は聴く耳を持たず、首を横に振るだけだった。休み時間の度に先輩とは会ってはいたが、温室の手入れの手伝いか昼寝をしに来ているだけと、言っても林は先輩に対して恋愛感情が芽生えているという意見を変えない。これは平行線の一方だなと、溜息を付いた。その態度が林のカンに触ったらしく、俺の肩を力強く掴んだ。

「綴は何時もそう。何処かよゆーそうで、俺の気持ち全然分かってくんない」

「別に余裕なんかねぇよ。ただ俺の話を聞いてくんねぇお前に呆れただけだ」

「……………綴、今の状況分かってる?俺に捕まってるんだよ?俺を怒らせたらどうなるのかとか考えないわけ?」

「俺がお前に負ける訳ねぇし、お前が俺に何かするとか思ってねぇだけ」

「やっぱり綴はおバカさん」

にぃと笑う林。何時も笑い方に戻ったから機嫌が治ったと思った。だが、そうではなかった。だって

「っん!?」

「はっ、ん……………ちゅっ、やっぱり綴の唇あまーい」


林にキスされた。

は?なんで?つか、ファーストキスがこいつ?は???と言葉にならず、口が魚のようにパクパクと動く。それを林はどう感じたのか分からなかったが、再び顔が近づいてきて、

「んゃ、はな、んっ!」

「ふ、ん……っ」

再び奪われた。ネクタイで縛られた手を動かしても解けず、顔を振って林の唇から逃げようとしても林の唇は近づいて、また奪われる。驚きと混乱と友人に奪われたという悲しみとかが色々混じって、思わず涙が出た。林はその涙に気づいたのか、真っ赤な舌で俺の涙を舐める。

「むふふ、美味しい、美味しいね。綴、泣いちゃった?可愛い」

「う、うっせ!つか、お前ふざけんなよ!。殴ってやるからこれ解けよ!!」

「やーだ。殴られたい奴なんて早々いないでしょー?。それにまだ終わらないよ?」

「………は?」

まだ終わらない?どういうこと?。そう聞こうとする前に、林の手は俺のネクタイに手をかけた。

「………いただきます」

語尾にハートが付くような甘ったるい声で、こいつは俺のネクタイを解いた。流石にここまでされてこいつがマジなことと、俺が今本格的にヤバイことは理解できたが、何よりも恐怖が強くて。あんなに喧嘩で強くても身動き一つ取れない。零れた涙は止まることなく、歯が震えた。

「たす、……ぱ、い」

塞がれた唇から盛れた言葉はあの人に助けを求める言葉だった。



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