泣き虫うさぎ | ナノ
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日向 said





「ふんふーん」

泣き疲れて眠ってしまった那智をおんぶして部屋を後にする。久しぶりに可愛い息子をおんぶできて俺は上機嫌だ。無理矢理時間を作ってここまで帰って来た意味があったと思う。
それにあの自分なら何でもできると勘違いしているもう一人の息子からのお願いも聞けた。これを機に人に頼るってことに慣れればいいけどと父親っぽいことを考えて苦笑い。ほぼ放任主義の俺が言っていいのかなこれは。俺の教育の間違いだった気がするけど…………。

「んー、気にしたら負けだ。うんうん」

独り言を呟きながら、リビングの扉を開ける。
一応俐人からのお願いである『那智を部屋から出して』って言うお願いは叶えることが出来た。まぁ、自分から出た訳じゃなく、俺が連れてきたが正しいけど部屋から出たのだからいいだろう。那智も一杯泣いたから落ち着いただろう。
那智をソファに寝かせ、隣に座る。無駄に長いソファを買って正解だった。これなら俐人も隣に座ることが出来る。
そう言えば俐人はどこ行ったんだか。リビングにはいないし、ここまで来るのに俺たち以外の人の気配がしなかった…ということは出かけたのかなー。風紀委員長とかやってたっけ?、何か問題でも起きたんだろう。あの子もあの子で俺の様に忙しいんだなと、自分の事を棚に上げる。仕事を殆ど秘書に任せたとかそんな現実は一回忘れることにしたんだから。

那智の真っ白な髪を撫でながら考える。
俐人から定期的に貰う電話では、那智は身体的にも精神的にも落ち着いてきてると言っていた。そしてやっと学校に行くようになったと。と言っても、二日間だけとなったが、俐人は自分のことの様に喜んでいたのを忘れてない。

「五年ぶりだっけ…那智が学校に行くのって」

五年も家に引き籠ってたんだ。兄としては嬉しいか。父親の俺も海外で喜びの舞を踊ったくらいだった。それくらい嬉しかったんだ。
狭い世界に閉じこもって、心から許せる人なんか片手に収まるくらいしかいない那智が、自分から狭い世界から出たのだから。




なのに、再び狭い世界に戻ったのは何故か。




学校自体は楽しかったらしい。俐人が言うにはだけれども。俺の学校でもあるから、そうそう那智にとって嫌な事起きるとは思えない。でも、那智にとっては嫌な事があったらしい。いや、嫌な事と言うより自分を責めることがあったというのが正しいのか。
俐人からは少し話を聞いていたし、友人であり那智の担任である新からも話は聞いていたが、那智が悪い事したとは思えない。寧ろ、

「………こんなに綺麗な子を化け物って言う子の方が悪いって思うのは俺だけかい、那智」

んんっと寝息の返事が返ってきて、やっぱり俺の息子は可愛いと撫でまくる。

英永和………俺の遠い遠い従兄弟。というか、俺にこんな従兄弟いたんだってくらい知らない子だった。無駄に血縁者が多い俺の家系だったが、那智と同い年の従兄弟がいることは最近まで知らなかった。
が、俺が学校を経営してると知った英永和の両親が、俺に電話をしてこなかったら俺が死ぬまで知らなかっただろう。そして、この電話のせいでこの子をこの学校に入学させてしまったのだから、根本的に悪いのは俺だったのかもしれない。
でも、この子が入学してくるまでは那智は引き籠りで、この子の両親からは改心したと聞いていたんだが、改心の糞もなかったのが現実。
あぁ、頭が痛い。

自分の大事な息子を傷つけられたのだから退学にしてやりたいけども、学校経営者が自分の私利私欲のために権力を振り翳すのは誰の為にもならない。それに心優しい那智が変に気にしたら、また自分を責めてしまう。
だから、今の所彼を退学にすることは俺にはできなかった。
出来ることは那智を影から支える事だけだ。

「あー、それってあんまり役にたってないね…。ごめんね、那智。お父さん、何もできないかもしれない」

今回は家まで戻ってこれたけど、次はそうもいかないかも知れない。
那智は泣いて、俐人は困り果てるかもしれない。
そう思うと、やっぱり父親が出来ることは少ない気がしてくる。
守りたいものは沢山あっても、一番守りたいのはこの子たちだった。それは今も那智と出会って家族が三人になった時から変わらない。
なのに、自分に付く権力は大きくなるのに、出来ることはどんどん少なくなる。

「おかしいな、本当におかしい」

片手で両目を塞ぎ、天を仰ぐ。寝息と俺の乾いた笑い声が部屋に響く。
那智の様に泣き虫じゃない俺は笑うことしか出来ない。きっと那智なら、お父さんは凄いって褒めてきそうだ。実際は大事な子たちも傷ついてからしか手を出せない奴なのに。一生懸命生きてる子を傷ついてから助けても何の意味も無いくせに。


「本当に俺達には生きづらい」



俺たちって誰のことか。フッと鼻で笑うと



「那智も俺も生きづらいと感じたことはないですよ、父さん」


呆れた声で呟くもう一人の息子が現れた。







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