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「何がもういいの那智?」
扉に片手をつく。開ければいいだけの話、簡単に開くだけの話、なのにそれは大きく硬い壁に見える。俺と那智の間に聳え立つ大きい硬い壁。
声を掛けても返事がない。お願い教えてと何度も伝えたら、また小さくか細い声が聞こえてきた。
「僕………ば…も、の」
「違う!」
思わずガンと扉を叩いた。部屋から小さな悲鳴が聞こえ、我に返ったが怒鳴ってしまったのは仕方ないと思う。那智は化け物なんかじゃない。那智は誰よりも綺麗な子だ。外も内も綺麗で自慢な弟。なのにそんな俺の大事な子が、自分自身をを傷つけるのは許せなかった。
「……ごめん、那智。でも、これだけは言わせて。那智は化け物なんかじゃない」
「…………う」
「違わない。那智は俺と同じ人間で誰よりも綺麗で自慢の弟」
「………」
これっきり那智は何も言わなくなった。
扉の前にケーキを置いて、リビングに向かう。ソファに置き去りにした携帯を手にし、ある人に連絡を取る。何度も電話をしたが、秘書にしか掛からなかったが今日は出て…と願いが叶ったのか、聞きたかった声が聞こえた。
「…と、父さん。お願いがある」
兄でも開けない扉なら、俺じゃない、那智のことを理解できるあの人に、父さんに那智を頼むことにしよう。
だから俺は、那智が帰って来た時に安心できる世界を整えよう。
「…よし、響のところに行くか」
俐人 said end
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