泣き虫うさぎ | ナノ
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俐人 said

那智が部屋に籠り、もう三日経った。俺は那智の傍にいるために学校を休んでいるが、四日後には新入生歓迎会の催しが控えている為そろそろ行かなくては神凪の負担が大きくなる。

「なーち、兄さんだよ。お話しない?」

部屋からは物音一つしない。小さくため息を吐き、その場を後にする。
那智が部屋に引き篭もる原因はもう冷泉から聞いていた。あれはDクラスのせいではない。責任を負うのはあの転入生なのは分かっていた。だが、やっと部屋から出て生活するようになったのにまた振り出しに戻された怒りは収まらない。

リビングに戻り、那智が好きなクッションを抱く。
怒りが収まらなくても、那智が籠もってしまった事実は変わらない。俺がすることは那智のために何をしてやれるかだ。父さんに相談したが、あの人は忙しい。この場来るのは当分先だろう。なら、今那智を傍で支えられるのは俺だけだ、しっかりしなくては。

「……まず、那智と話さなきゃ」

物音一つしなくてもあの部屋にいるのは分かってる。
もう一回話しかけよう。何度も繰り返したし、那智と話ができるまで何度も繰り返す。
キッチンに向かい、那智と約束したショートケーキを冷蔵庫から取り出し、再び那智の部屋へ。











「那智、ショートケーキ持ってきたんだ。ドアの前において置くから後で食べてね」

カタリと廊下に皿を置く音が響く。俺も皿の隣に座る。返事は求めず、ただ那智に聞いて欲しい事は沢山ある。

「今日の夕飯はオムライスだよ。TVで卵をふわふわにする方法を教えてもらったから、作ってみたくてね。失敗作は俺が食べるから、楽しみにしていて」

父さんとずっと前に行った食事会で那智が、ふわふわのオムライスに感激していたのは今でも鮮明に思い出せる。まだ試してないけど、那智のために俺も挑戦してみよう。…あんまり卵を無駄にしたくないなと、苦笑。

「そう言えばね、ケーキを買いに行った時新作のケーキを今度発売するって聞いたんだ。どんなケーキだろうね、今の時期ならイチゴだから…イチゴをふんだんに使ったショートケーキかな。イチゴ好きな那智にとっては楽しみだね」

イチゴ狩に連れて行ってあげたいな。晴れてる時は那智に負担が掛かるから、曇りに行くか。沢山のイチゴに囲まれるなんて那智はびっくりするだろうな。初めて行く果物狩だから、那智が目一杯楽しめるようにちゃんと計画立てないと。

「そう言えば父さん、今アメリカにいるって。また何で外国になんかいるんだか。…お土産何頼もうか?。父さんのセンスは変わってるから注文付けておかないとまた変な置物が来るしな。…本当中国行って何でコアラの等身大置物買ってくるんだか、せめてパンダにして欲しいよ」








何時間扉に向かって喋っていたんだろう。話題は尽きないが、返事は一回も返ってきてない。まぁ、返事は求めてないから全然構わないのだが。
次は何を話そう、神凪の珍プレーとか話すか……と口を開いたときだ。

「…………い」

「…な、那智?」

三日ぶりに聞いた那智の声。か細く今にも消えそうな儚い声。
何て言ったんだと、耳を澄ませれば今度ははっきりと聞こえた。



”もう、いい、にぃ”




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