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恭 said
「……よ、め……い」
小さな声が隣から聞こえた。
ジジイに指名された那智からだ。目立ちたくない那智にとっては、音読なんて最悪だろ。代わりに俺が読むか……?と考えてた最中に聞こえた言葉だった。
今、こいつはなんて言った?。
そう思った時にはカタカタと震えながら立ち上がる那智。
この震えは目立ったための震えか、または違う震えなのかは分からないが、顔色がどんどん悪くなっていってる。
これはダメだ、そう感じとり那智左手を掴み、無理やり座らせる。
ジジイと那智は困惑した顔で俺を見てきたが、そんなの知らねぇ。
「俺が読む」
そう言えば人助けしたのは初めてかもしんねぇな。
*
ジジイや周りの奴らは俺が読み始めた事に吃驚し、那智のことは気にしていないらしい。当の本人は俺の事をじっと見ている。
突っかかりもせず読む終わり席に座る。
「那智」
「っ!」
ただ名前を呼んだだけでもここまで驚かれる。いつか驚かなくなるのか、そんなことを頭の隅に考えながら気になっていたことを質問した。
普通じゃありえない様な内容の質問を。
「お前、字読めないのか」
ビクッと体が動き、膝の上にある手が力強く握られた。やっぱり正解か。
最初の言葉に、さっきの怯えるような隠したがるような震え。それに黒板の文字をじっと見て確認するようにノートに写す様。いくつかのピースで合わさった答えは最悪なものだった。
「ごめんっ…な、さい!」
那智は叫ぶ様に出た言葉は謝罪で、そのまま立ち上がり教室から出て行った。
「チッ」
ジジイにクラスの奴らは突然のことで何がなんだが分かっておらず、収拾がつかない様だ。そして、今まで寝ていた前の二人が騒ぎによって起き出した。
「う、るさいなぁ!」
「何ー、誰か来たのー……」
癖になってる舌打ちをし
「奏、瀬奈。後は任せた」
「「 へ?」」
それだけ言い残して俺は那智を追った。那智のことだ、きっと誰もいないとこに行くはずだ。
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