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「多分ー、俺たちが一番最後かもねー」
「だねー。恭ちん、教室来るの久しぶりじゃないかな?」
「来たいって思わねぇからな」
「皆、驚くんじゃないかなー、なっちゃんもいるしねー?」
と、奏くんは僕に向けて、ねっ?、って言ってきた。僕がいるとやっぱり皆驚いちゃうのかな……。
職員室を出たのはいいんだけど、まだ目的地の僕たちの教室に辿りついてない。途中でチャイムも鳴っちゃってたし。
廊下には僕たち四人以外誰も通らないし、声もしない。やっぱり遅刻しちゃったのかな。
「まぁ、遅刻しても八神ちんのせいだから僕たちに責任はないもんねっ」
「そうそうー」
って遅刻してると思うけど、誰一人として急がない。まぁ、僕は恭くんに抱っこしてもらってるから、急ぐとか関係ないんだけどね。
「那智ちーん、嫌なら答えなくてもいいけど質問していい?」
「………しつ…も、ん?」
瀬奈ちゃんは恭くんの前で立ち止まり、不思議そうに僕を見上げている。恭くんは何故か不機嫌顔だったけど。
「うんっ。那智ちん、その左目どうしたの?」
僕の眼帯をした左目を指差しながら首を傾げる瀬奈ちゃん。
隣でヘラヘラと笑っていた奏くんは突然黙り、その場が静かになった。
「深い意味はないからねっ!?。
ただ気になるっていうか………ごめんね」
瀬奈ちゃんはその場の空気に耐えきれなくなったのかぺこりと謝ってきた。
でも、気になるのは仕方ないと思う。一日だけなら腫れたとか考えるけど、二日も眼帯してたら腫れた訳で眼帯してるとは考えなくなると思うし。
あんまり言いたくはないけど、何故か言わなきゃって思った。この人たちなら言っても大丈夫かもしれないって。
「……小さい、頃………事故で、失、明………し、た」
簡潔にでも伏せるとこは伏せて伝えた。
そして、またその場が静かになってしまった。遠くからどこかのクラスの生徒の声が響いてきた。
「…………言わせちゃってごめん」
僕よりは少しだけ大きい瀬奈ちゃんの体はいつもより縮こまってしまった。謝らなくていいのに、僕が勝手に言っただけなのに。
僕は瀬奈ちゃんに向かって手をのばした。でも、
「瀬奈」
瀬奈ちゃんに向かって伸ばされた手は、恭くんの手に捕まえられて下ろされる。なんでだろう?。
「那智の顔見てみろ。謝って欲しいって顔してねぇだろ。………つか、俺の前に立つな、チビ」
「なぁっ!?今に背なんか恭ちんを見下ろすくらい伸びんだからっ!。チビ言うな、この自意識過剰!!」
「弱い犬ほどよく吠える」
「ぶっ!恭最高ーっ!」
「笑うな、奏ちん殺すっ!!」
「なんで俺だけっ!?」
恭のたった一言だけでまたさっきまでの空気に戻った。うわわ、早すぎて追いつけてないんだけど。
瀬奈ちゃんは奏くんを蹴ったり叩いたりしているけど、どこかしら楽しそうだった。よかった、笑ってる。
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