20
手を掴んだ瞬間、僕は誰かの腕の中にいた。一瞬すぎて誰かもわからなかった。
「なっちゃん本当ごめんっ!」
なっちゃん……そう呼んでくれるのは奏さんだけだ。ということは、僕を抱きしめてくれてるのは奏さんなのか。
「い、い」
多分昨日、僕のフードを無理やり外したことに謝っているのかな……。凄く嫌だったけど、もう謝ってくれたからこれ以上謝らなくてもいいのに。
「ごめん……俺もなっちゃんを守るからっ!。今度は傷つけさせないから!」
肩を掴まれて僕の顔を見ながら宣言する奏さん。よくわからないけど、信用されたのかな?、僕。
「お…願、い…し……ま、す、奏さん」
小さくお辞儀すると今度は両手で顔を挟まれた。え?。
「………なんで俺だけさん付けなのー?」
「…………え?」
さん付け。
言われてみれば、恭くんに瀬奈ちゃん、八くんって僕はみんなのことを呼んでるけど、奏さんのことは奏さんって呼んでいる。
奏さんはさん付けが嫌なのかな……?。
「そ……うくん?」
と、僕が言うと奏さん改めて奏くんは、ぱぁーっとキラキラな顔に変わり、僕を力いっぱい抱きしめてきた。く、苦しいっ。
「可愛いっ!なにこの子!?。俺、もらっていい?、つか貰うっ!」
「何言ってるの奏ちん!。那智ちんは僕のなのー!」
霞む視界で瀬奈ちゃんも抱きついてきた。そう言えば、瀬奈ちゃん空手黒帯なんだよね……。抱きしめられるのは好きだけど、いい加減やばいかもしれない。
「お前らいい加減にしろ!。那智が死ぬぞ」
恭くんの声が聞こえたと思ったら、二人の腕から解放され僕は恭くんに抱っこされていた。あれ?いつの間に。
「あぁー!恭ー、ずるいー!」
「恭ちん、那智ちんを離せー!」
「うるせぇ。おい八神、那智連れてくからな」
と、先生の返答を聞かず恭くんはスタスタと歩き出した。僕を抱っこしたまま。
恭くんは誰かを抱っこするのが好きなのかな?、昨日も殆ど僕抱っこされてたし。
恭くんの横顔を見ながらそんなことを考えてたら、
「職員室出るが、フードは外しとけよ」
「え?」
なんで外したままにしなきゃなの?。まだ生徒が職員室の外にいるかもしれない。僕の姿を見られるかもしれないんだ。
そう考えると体が勝手に震え出す。例え今日しか登校しないと僕が決めたとしても、誰かに見られるなんて絶対嫌だ。
「なっちゃんー、もしかしたらーこれから学校来るかもしんないんだから、外した方がいいと思うよー?」
「それにこんなに可愛いくて綺麗なんだから自慢することだよっ!。もし那智ちんの悪口言うクソ野郎がいたら僕がシメとくしねっ」
「あ、瀬奈ちゃんー、俺もその仲間入るー」
「いいよいいよー。でも、僕が隊長だからねー?」
「えー俺が隊長に決まっt「何か言った?」何でもないよー………」
と、追いかけてきた奏くんと瀬奈ちゃんは言う。もしかしたら学校に来るかもしれない、って可能性はほぼ0だ。今日だけでいいもん、みんなとの思い出作りは……。
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