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「なんだお前たち、那智の知り合いだったのか?」
「八神ちゃんこそ……」
奏さんは僕を指差しながらそう呟いた。瀬奈ちゃんなんて口をパクパクして金魚さんになっている。
少し面白くて笑いそうになった時に思い出した。視界が開けていること。僕はフードを外していることに。
「………っ!?」
急いでももう遅いかもしれないけど、僕はフードを被り直し、新先生の背後に隠れた。
でも何故か体は震えてはいなかったけど。
突然の僕の動きにみんな驚いたみたいで静かになった。新先生だけ、何か小さな声で呟いたけど何も聞き取れなかった。何を言ったんだろう………僕の容姿のこと…じゃないよね、僕のことを認めてくれる人だもの。
「那智」
考えていたら、静かに口を閉じていた恭くんが話し始めた。
「お前の兄から聞いた。俺たちは那智と同じクラスだ、今後ともよろしくな?」
恭くんは僕に向けて手を差し伸べる。それに続くように隣にいる瀬奈ちゃんと奏さんも
「那智ちん、同じクラスで僕、嬉しいよっ!。楽しいこといーっぱいしようねっ」
「俺もなっちゃんと同じで嬉しいっ。………つか、昨日はマジでごめん、許してくれなんて言わないけどなっちゃんと沢山話したい……。本当にごめんなさいっ!」
と、手を差し伸べてきた。奏さんだけ、頭を下げてきたけど……。昨日のこと…?。僕、奏さんに嫌われてるんじゃないの?。
と、考えてたら背中を優しく叩かれた。犯人は決まってる、新先生だ。
「那智とよろしくしたいみたいだぞ、こいつら。……で、那智はどうしたい?」
「……ぼ…く?」
どうしたいって……。
いつか嫌われてもいい、気持ち悪いって言われてもいい。その代り、ただ一瞬だけでも少しだけでも友達との思い出を作ってみたい。昨日の一件で、僕にとっては大きな願いが生まれた。
にぃだけの世界で僕は十分だったけど、にぃはこんな僕を許してくれるかな………。
「にぃ……ゆ、るして……くれ、る?」
「ん?俺は俐人じゃねぇから分からんが、那智のやりたいことをやった方があいつは喜ぶんじゃねぇか?」
ニヒッと笑い、ぐしゃぐしゃーっとフード越しの僕の髪の毛を掻き乱す。うぅ、痛い。
………にぃも喜んでくれるかもしれない…。
僕はにぃが悲しむのが一番嫌だ。なら僕は。
ゆっくりフードを外し、新先生の背後から出る。一歩ずつ進んで
「………よろし、く…お願い……し、ます」
三人の手を掴んだ。
これが本当の僕の姿だよ。
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