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「あ、俺も気になるー!。恭がベタ惚れしてるその子ー」
「ベタ惚れなんてしてねぇよ。
………那智泣き止んだか?」
涙は止まってるけどそれどころじゃないよ、恭くん。フード越しから伝わる疑わしい目。恭くんが背中をさすってくれるけど、まだ安心なんて出来ない。
「こいつは香水那智だ。あー、風紀委員の香水俐人の弟」
「……………はぁ!?あのクソ野郎の弟連れてきてんの、恭ちん!!」
「うわー、恭が自由人なのは百も承知だけど、流石にないわー」
「先輩……下剋上、覚悟しといてください」
「てめぇら後で覚えとけよ……特に八」
クソ野郎?。もしかしてここの人たちはにぃの事が嫌いなのかな。それはショックだけど、もしかするとその弟の僕のことも嫌いになっちゃうよね。
「ご、めんな……さい」
「なーち、謝るところじゃねぇよ」
小さな声で謝ったら恭くんだけには聞こえてたみたい。頭を数回優しく叩いて、恭くんは三人の方に目を向けた。
「おい、そんなに敵視すんじゃねぇよ。こいつはあの委員長とはちげぇ。……後は自分たちで判断しろ」
「……………はぁ、恭ちんがそこまで言うなら信用してあげてもいいかなー」
「瀬奈ちゃん、優っしー。
ま、俺も賛成だなー」
「先輩たちがそう言うなら俺も信用します」
「だとよ、那智。よかったな、俺以外にも"トモダチ"が三人できたな」
流れる様に話が進み、友達まで出来ていた。信用するって言ってたけど、少しだけ疑ってる目をしているけど仕方ないと思う。それに僕もまだ信用できるって言えない。だから、丁度いいかもしれない。
「と、もだち………?」
「あ!やっとこっち見たねーなっちゃん。んー、一年生っぽいからはっちーと同じ?」
と、ふわっとした声で綺麗な赤い髪をしたこれまたイケメンさんがニヤニヤしながら話しかけてきた。
でも、僕二年生なんだけどな。そんなに小さいのかなって不安になる。
「僕、二年……せ、いです」
「えー嘘はいけないよーなっちゃん」
勝手にあだ名をつけられていた。それに、本当のことなのに疑われてるし。
「う、そじゃ……」
「奏、那智はちゃんと二年生だ。しかも俺たちと同じクラス」
「うそーん、恭が言うなら本当なのかー。しかも、俺たちと同じクラスとかー。
でもさ、瀬奈ちゃんより低くない?」
と、赤い髪の人……奏って名前なのかな?。
奏さんは隣に立っているピンク髪で前髪をピンで上げてデコだししている女の子みたいな人に話しかけた。
この子が瀬奈ちゃんって子なのかな?。
じゃあ、もう一人が八さん……だよね。
消去法で名前を当てていく。
「那智ちん、何センチー?」
と、ピンク髮の女の子?が話しかけてきた。パッと見、僕より少し高い様な気がする。
「1、50くらい……で、す」
「……………!!!。ぼ、僕より背が低い子見つけたっ!!。恭ちんっ!、僕、那智ちん気にいったよ!」
「うわぁっ!」
と、突然瀬奈さん?は僕の方に飛び掛って来た。突然過ぎて避けれなかった。いや、分かってても避けれる自信ないんだけどね。
「那智ちん、僕の名前は不知火瀬奈だよ。好きに呼んでー?」
「せ、な……さん?」
「ぶー、さん付けはダメ」
「あぅ……ん、と……瀬奈…ちゃ、ん?」
「うん!。と言うか、那智ちんなんか癒される、可愛い、マスコットみたい!。あんな奴の弟って信じられないくらい!」
と、瀬奈ちゃんはマシンガンみたいに話しかけてくる。早すぎて相槌しか打てない。
「瀬奈ちゃんが誰かを可愛いって言うなんて珍しいねー。自分一番主義者なのにねー」
「可愛いモノに可愛いって言ってるだけなんだけど。ま、僕が一番可愛いのは変わらないんだけどね」
確かに瀬奈ちゃんは可愛い。この学園、男子校だから男の子って分かったけど、共学とかだったら絶対女の子だと思っちゃうもん。
「せ、なちゃん……可愛、いくて…羨ま、しい……で、す」
そう言ったら再び瀬奈ちゃんに抱きしめられた。さっきより強い力で。
「那智ちん、最高っ!。チワワ野郎達とは違う!。
でもね、那智ちん。僕が可愛いのは当たり前だけど、那智ちんも十分可愛いからね??」
と、可愛いらしい声で同じ男の子とは思えない力で僕を締め上げてくる瀬奈ちゃん。何か言わなきゃと思うけど、体はそれどころじゃない。
「瀬奈先輩、苦しそうですよ……えっと那智先輩?が」
と、僕の救世主が現れた。視界が霞んで顔がちゃんと見えないのが残念だけど。
「えっ?……あぁ!ごめん那智ちん!」
パッと解放されて僕はそのままソファに座り込んだ。
すーはーすーはー、やっと空気が吸えた。
「瀬奈ちゃんー、空手黒帯なんだからそんなに強く抱きしめたら死んじゃうよー?」
「ごめんね那智ちん、つい興奮しちゃって」
興奮しただけで僕を殺さないでなんて言えない。それに瀬奈ちゃんはしょんぼりした顔で僕を見てくるから、僕が罪悪感に苛まれる。
でも、奏さんがサラリと言った瀬奈ちゃんは黒帯って事実に驚かされた。同じくらいの背の高さなのにどうしてこんなにも違うんだろうって。
「ケホ…だ、いじょう……ぶ」
「本当に??」
こくんと頷く。うん、大丈夫。少しまだ痛みは消えないけど今に消えるだろうし。それに、これくらいの痛みなら我慢できる。
と、自己完結してたらポンっと頭に重みがかかった。見上げてみたら恭くんと同じ黒髪をした男の子が、僕の頭に手を乗せていた。
え?、何僕何か変なこと言っちゃったかな………。
「那智……先輩でよろしいんでしょうか?」
「…え……?」
「はっちんと那智ちんってどう見ても、はっちんが先輩にしか見えないね、奏ちん」
「瀬奈ちゃんに同意ー。実際は逆なんだけどねー」
と、瀬奈ちゃんと奏さんたちが話始めた。
逆………八さんは僕のこと先輩って呼んだ。でも、瀬奈ちゃん達的には僕が後輩に見えるってことだよね。ということはもしかして
「……い、ち……年せ、い?」
「はいそうです、今月入学してきた壬生八と言います。よろしくお願いします、那智先輩」
深々と僕にお辞儀をしてきた……八くん?。も、もうしわけない!!。
「こ、こちら……こそ…。
か、お……上げて……んと、八く、ん?」
そう言うと八くんは顔を上げて、再び僕の頭に手を置いた。しかもそれだけじゃなく撫で回してきた。あぁ、フード!、って思い僕はフードの端をギュッと掴むけど、八くんは撫で回すのをやめない。
「何でしょう、この気持ち……。この撫で回したくなるこの気持ちは…。はっ!もしかしてこれが動物愛護ですか!」
「「違うねー、はっちん/はっちー」」
僕も違うと思います。
動物じゃないのに、僕。うさみみパーカーだけど、僕はうさぎじゃないし。
「はて、違うのですか?」
「はっちんよく考えて。那智ちん人だよ?。確かにうさぎみたいな小動物っぽいけど」
「動物愛護には当てはまらないんじゃないかなー、人はー?」
「そ、そうなのですか!。難しいですね…」
と、八くんは僕を撫で回すのをやめて、腕組みをし考え出した。何と無く思ったけど、八くんって天然さんなのかな……。
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