06
ずっと恭くんの肩に顔を埋めてたら、ガヤガヤと周りが五月蝿くなってきた。沢山の声………。ぎゅっと恭くんの制服を掴む。
「大丈夫だ、周りの奴らには那智の顔見えねぇよ。俺がいるからそう怖がるな」
ぽんぽんと背中を叩かれたけど、怖がるななんて無理。怖い怖い、怖いよにぃ。
「那智、食堂に着いたぞ」
僕の恐怖心を他所に目的の場所についたらしい。にぃを探さなきゃなんだけど、周りの声はさっきより多くなっている。顔なんてあげられない。ど、どうしよう……。
「に……にぃ……」
小さな声で呟いた言葉は恭くんにはちゃんと聞こえてたらしく、
「兄を探すのか?。……名前は」
「……か、すい……りひ、と」
「香水俐人だと………!。チッ、これも予想通りかよ……。那智、ちょっと待ってろ」
予想通り?。
恭くんとにぃって仲が悪いのかな……少しショックだ。
恭くんは迷いなくスタスタと歩く。
にぃの場所分かるのかな……なんて考えてたら、僕の大好きな声が聞こえた。
「な、那智っ!!。
……冷泉、那智を離せ」
「は、ここまで案内してきた奴にそんな態度を取るのかよ、風紀委員長サマは」
「案内……?。案内してきてもらったのかい、那智?」
顔を上げてにぃの顔を見たいけど、にぃに近づいてから周りの声はもっと多く、もっと五月蝿くなったから、上げられない。
恭くんの肩に顔を埋めながら、こくんと頷く。
「……そうか、冷泉すまなかった。那智の案内、ありがとう」
「やけに素直だな」
「俺は何時も素直だ。礼は言った、那智を離してもらおうか」
「………那智、離すぞ?」
ビクッと体が飛び上がり、恭くんはゆっくりと床に下ろした。フード越しでも分かる視線の数。とても良い視線ではないことも。
「ふ、ふぇ……」
また泣いちゃう、そう思った時後ろから僕は抱きしめられた。大好きで一番安心する人に。
「那智、泣かないで。
ほら、兄さんはここにいるよ」
僕は振り返ってその胸に体を埋めた。
周りの声が奇声へと変わったけど、そんなの知らない。やっと着いた。やっと会えた。
「に、にぃ……うっ。ん、ふぇぇ」
「あー、ほらほら。目が赤くなっちゃってもっとうさぎさんに似ちゃうよ」
背中を優しく叩かれながら、僕の体が持ち上がった。
「那智、よく頑張ったね。偉い偉い」
にぃに頭を撫でられる。
道に迷っちゃったけど、頑張ってよかったって心から思った。にぃの胸にぎゅーと顔を埋める。
「チッ」
「冷泉、案内はもう終わったんだ。戻ったらどうだ」
「うるせぇよ。………こいつをこんなとこに来させるなんてな」
「………お前には関係ないだろ」
僕の頭上でにぃと恭くんが話してる。明るい感じじゃなくて、ピリピリしてる。何時ものにぃとは違う、さっきの恭くんとは違う雰囲気。
無意識ににぃの制服を握りしめてた。それに気づいたのか
「あ、ごめんね那智。怖がらなくても大丈夫だよ。そうだ、届けてくれたお礼にケーキ買って帰ろうか?」
ケーキ……!。
甘いものは好き。ずっと食べてたいくらい好き。やったぁ、ケーキケーキっ。
「何のケーキがいい?イチゴ?チョコ?それか、この前食べたチーズケーキかな?」
「い…ち、ご」
「うん、了解。生クリームたくさん付けて貰おうね」
こくんと頷く。顔を埋めてるけど、にやにやが止まらない。イチゴのケーキ、楽しみだな。現金かもしれないけど、ケーキ食べれるならここまで来てよかった。
「おい、那智」
と、背後から恭くんに呼ばれた。振り向こうとしたけど視線は怖い。それに、にぃに頭を優しく抑えられてて振り向けなかった。
「香水…、まぁいい。
那智、お前ケーキ好きなのか?」
即座に頷く。ケーキじゃなくても甘いものなら何でも好きなんだけどね。あぁ、ケーキ楽しみだなぁ。
「そうか」
恭くんはそれだけ言うと黙ってしまった。なんだろ?、もしかして甘いの嫌いで僕とは相性が合わないとか………。
どんどんネガティブ思考になっていった時ににぃが話しかけてきた。
「那智、お弁当は貰うね?」
ショルダーバッグを開けて、にぃは自分のお弁当を取り出した。あ、渡してなかったけ……。
「後、那智に謝らないといけないことがあるんだけど聞いてくれるかい?」
「………?」
「今から校外に出なきゃ行けなくなっててね?。寮まで送り届けられないんだ。一人で帰らす訳にもいかないし。……風紀室で待っててもいいんだけど誰か入ってきたら嫌だろ?」
唯でさえにぃもいないのに誰かに会うとか絶対無理だと思う。恭くんと初めて会った時みたいに泣き出すかもしれない。抑えようとしてるけど、フラッシュバックして抑えられない。
「あぁ、ほらほら泣かないで。……父さんはいないけど理事長室とか空いてると思うから一人でいれるかい?。そこなら誰も入って来ないと思うしね」
知らない場所に一人でいるのは嫌だけど、それ以上に誰かと会う方がもっと嫌だ。なら、理事長室で待っていた方がいいかも。
こくんと頷こうとしたら、
「香水、那智なら俺が預かってやってもいいぞ」
「はぁ?」
「今までずっと一緒だった俺なら那智も怖がらないだろ。それにあの部屋なら人なんて来ねぇしな。………野次馬共が増える前にここを退散した方がそいつの為だろうしな、委員長さん」
ん?恭くんが僕を預かってくれる?。
………恭くんとなら一緒にいたいな。折角出来た友達だもん、いつ外に出るか分からないんだから思い出とか作りたいし、沢山話したい。……喋るの苦手だけどね。
「確かにな………、那智、冷泉と一緒にいたいかい?。それとも一人がいい?」
間を開けずに答える。もう決まってるしね。
「い…しょに、いる」
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