03
そう心に決めてる最中でも恭先輩は僕の頭を撫でている。フード外れちゃわないか心配。ぽけーと先輩の顔を見ていたら、何か思いついたらしくニヤリと笑った。
「那智、食堂まで案内してやる」
「!………あ、りがと……ございま、す」
にぃを困らせなくて済むかもしれない。恭先輩には本当に感謝だ。いい人に会えてよかったなぁ。
先輩はゆっくりと立ち上がり、スタスタと歩いて行く。案内するって言っていたから、着いてこい、ってことだよね。
と、勝手に解釈して急いで先輩の後を追う。でも、中々差が狭ばらない。む、先輩の足が長いからだ。イケメンなのにこれまたズルイ。負けるものかっ。
僕も出来るだけ早く歩いているだけど、運動を全くしなかったからかな。息がハァハァしてきた。
そんな情けない声が聞こえたのか、前方にいる先輩が立ち止まり、こちらに振り向く。
「早かったか?」
早かったかですとか言える訳がないので、ふるふると首を振る。案内までしてくれるんだもん。これくらいで文句とか言っちゃ礼儀知らずになる。
無意識に握りこぶしを作っている僕を見た先輩は何かを感じ取ったらしく
「っ!?」
「この方が早かったな」
と、先輩は僕を軽々持ち上げて抱っこして歩き出した。さ、さっきも抱きしめられたのに、まただ。もしかすると恭先輩は抱きしめ癖みたいなのがあるのかな、僕のにぃみたいだ。
「那智、お前ちゃんと食べてるか?。持ってる気がしねぇんだけど」
こくんと頷く。ちゃんと食べてるよ、一日一食だけだけど。
でも、直ぐ近くにイケメンさんの顔があるって不思議。それにいつも見てる背の高さじゃないから変な感じがする。先輩はこんな景色を見てるんだね。お空が少しだけ近くなった気がする。夜だったら星が掴めたかもしれないなぁ。
「何、空に手伸ばしてんだ?」
無意識に空に手伸ばしてたらしく恭先輩は怪訝な顔をしていた。無意識って怖い。変な子だと思われたよね……?。
「そ、空が……近く、て」
「あぁ、那智背が低いもんな。掴めそうか」
と、恭先輩は僕を変な人と見なす様な目じゃなくて、ニヤリと笑ってくれた。
「低く、ない……で、す」
「じゃあ、何センチだ」
「1、50くらい…です」
最近測ってないからまだ伸びてるかもしれない。希望を忘れちゃダメだよね。
「俺と25センチ差か」
クククッと笑う先輩。
そんなに差があるの?、イケメンで足が長くて背が高いって僕の理想の男の人だよ。羨ましいけど、悔しいのも本音。それが表れたのかむ、と唇を尖らしていた。
「なんだ、拗ねてんのか那智」
違うもんと、ふるふると首を振る。
先輩はニヤニヤと笑っている。恭先輩は意地悪だ。でも、いい人なんだよね。
いつか先輩を追い越せるくらい伸びてやるんだから。とりあえず牛乳とか飲んだ方がいいかな、カルシウムは骨にいいって言うし。
「そう言えば、那智。フード外さねぇのか?」
と、恭先輩はうさ耳の右側を優しく引っ張る。
「だ、だめ」
「訳があんのか?」
こくんと頷いて
「し、がいせ……ん」
「肌が弱ぇのか」
これにもこくんと頷く。
にぃと約束したし、一番の理由は違うけど。こんなにいい人の恭先輩に嫌われたくない、それが一番の理由。
「顔、見てみたかったが、それなら仕方ねぇな。パーカー似合ってるぞ」
先輩はうさ耳から手を離し、僕の頭を撫でる。うん、僕はこの手が離れちゃわないか心配なんだよ、先輩。
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