泣き虫うさぎ | ナノ
02

ここどこなんだろう。
にぃが困ったら連絡して、って約束したから連絡しよう。早速迷惑かけちゃったな……はぁ。

「ご…めんなさい……」

僕以外誰もいないけど、つい零れた謝罪。にぃに見つけたもらったら、ちゃんと謝ろう。

ポケットに入れてあるケータイを取り出そうとしたら

ガサッ

と、茂みから音がした。
あ、あれ?人が居たのかな……に逃げなきゃっ!。

僕の危険回避の鐘が鳴る。愛ちゃんならいいけど、この学園に僕の知り合いはにぃくらいだ。ガタガタと自分でも分かるくらい体が震える。どうしよう、逃げなきゃ、怖い、体が動かない。

茂みからの音はどんどん僕に近づいてくる。右目は水が膜を張り始めた。

「……ふぇ…に、にぃ……」

と呟いた声を掻き消すように茂みからの音は一層大きくなり、

「……誰だこいつ」

黒髪で所々白に染めて、耳にはピアスが沢山付いたイケメンさんが出てきた。

「おい、ガキ。てめぇ、何でここにいんだよ」

道に迷ったからで……って言いたくても、怖くて喋れない。ひ、人がいる。にぃ以外の人がすぐそばに。昔の記憶を思い出す。

「あっ……ふぇ、やだやだやだこ、怖いよ……にぃぃ!」

膜だった水が弾け、目から零れ出す。
頭を抱えて僕はしゃがみ込んだ。

逃げなきゃって頭では分かってる。でも、足がこの場所に縫い付けられたかの様に一歩も動かないのだ。

「あぁ?なんだこいつ……」

前方からそんな声がする。
お願い、早く何処かに行って下さい。にぃ、ごめんね、お弁当届けに行けないかもしれない。

「うぐっ、にぃ、にぃ……ふぇぇぇ」

「チッ」

足音がする。何処かに行こうと去る足音じゃなくて、僕に近づいてくる足音が。
自分でも分かるくらい体が飛び上がり、ガタガタ震える。
来ないでって言えるはずもなく、泣き続けることしかできない。

足音が僕の前で止まり、しゃがみ込む音に変わった……?。

そして

「……ふぇ??」

「いい加減泣き止め、ガキが」

と、イケメンさんに抱きしめられた。


………………………え?。
今、違う意味で混乱中だ。何で僕は抱きしめられてるの?。え?え??。

「泣き止んだか?」

「………………」

「おい、俺の話を無視するとはいい度胸じゃねぇか、ガキ」

「あ、…………ご、ごめん…な…さい」

フードの中を覗き込んでくるように、イケメンさんの顔が近づく。にぃもかっこいいけど、この人も凄くかっこいい。

そして、僕は気づいた。
こんなに顔が近いのに、今はそこまで怖くないことに。さっきまであんなに震えてたのに全く震えない。

「で、ガキ、お前はここで何してんだ」

おかしいな……と考えてたけど話しかけられたので一旦中止。後でにぃに聞いてみよう。

「……道に……ま…迷った」

「お前は何処に行きてぇんだ」

「……しょ…く堂」

「真反対じゃねぇか。道に迷いすぎだろ、ガキ」

真反対に来てたの、僕?。
やっぱり一年ぶりの学園は忘れてるね、まぁ今日しか来ないと思うからいいけど。

「おい、お前の名前は」

「……か…香水、那智」

「香水?……嫌な野郎を思い出した…」

イケメンさんは何処か嫌そうな顔をして頭を抑えている。嫌な野郎??、喧嘩でもしたのかな?。……あ、名前。

イケメンさんの制服を少し引っ張って

「な、名前」

「あぁ悪い、冷泉恭だ」

冷泉恭……先輩だよね。背も高いしイケメンだから。うん。

「冷…泉先輩?」

「名前で呼べ、那智」

「ん?……恭先輩?」

「それでいい」

と、恭先輩はフッと笑い、僕の頭を撫でてきた。うわぁ、笑った顔にドキッてしたよ、イケメンさんは羨ましいね。

「へ、へへへ」

僕も撫でられた事に嬉しく感じ、頬が緩んだ。撫でられるのが好きだからしょうがないんだよ。

「っ!」

突然恭先輩の手が止まった。僕、何かしたかな?、と恭先輩の顔を見てみると口元を抑え、真っ赤に染まる先輩がいた。
風邪…!き、気持ち悪いってことかな…?。

「おい、那智」

「はひっ!」

心配になっていて突然名前を呼ばれたから、変な返事しちゃったよ。恥ずかしい……うぅ。
でも、先輩はそんなのお構いなしに

「お前、笑うの禁止」

「へ?」

そういうと再び僕の頭を撫で始める先輩。
ど、どういうこと?。僕の笑った顔か見るに耐えなかったから忠告みたいな?。ぼ僕、にぃにいつもヘラヘラ笑ってたよっ!?。そんな顔を見せてたって……にぃも先輩もごめんなさいだ。これからは注意しよう、うん。




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