01
「………ま…いご??」
鬱蒼茂る木々の中心に僕は立っていた。
近くに綺麗な噴水とベンチがあるだけのスペースに。
フードを被ってるから視界は狭いけど、こんな場所僕は知らない。と言うか、この学園に僕が知っている場所なんか殆どないんだけどね。
何で僕がここにいるのか、ちょっと思い出してみよう。
*
僕の名前は香水那智。
一年間学校をズル休みして、もう二年生になった。僕のにぃは三年生になって、風紀委員長をやっているんだ。
ズル休みしている理由は色々あるけどまた今度ということで……今日も僕はズル休みをしていた。
お昼ご飯の時間まで後少しって時に、僕はにぃが作ってくれたお昼ご飯を食べようと台所に向かったんだけど
「……にぃのお弁当……?」
いつもないはずのにぃのお弁当が置いてあった。忘れちゃったのかな……。届けた方がいいよ……ね?。
と、考えてたら固定電話がチリチリと鳴った。吃驚したけど、急用かもしれないから急いで受話器を取ったら、
『あっ、那智?。兄さんなんだけど』
「にぃ……??」
『那智に頼みたいことがあるんだけど、聞いてくれるかい?』
「ん……あっ、お弁当」
『気づいてたのか?。お弁当忘れちゃったから那智、届けに来てくれるかな?。あ、怖いならいいよ?パンとか高い学食とか食べるし』
と、にぃは僕を気遣っておちゃらけて言うけど……折角作ったんだがら食べなきゃ勿体無い。流石に僕もお弁当二つ食べれるほど、食い時張ってない。
「ん……わか……た」
『ありがとう、那智。偉い偉い』
と、電話から優しい声で僕を褒めてくれるにぃの声。喜んでくれてる……?。
『俺、一階の食堂にいるからね?。困ったらメールでも電話でもしてきてね。あ、無理しちゃダメだよ?、辛くなったら俺のことは気にしないで帰っていいからね?』
「ん、約束」
『うん、約束。制服とカバンは那智の部屋にあるから、それを着て来るんだよ。ブレザーの下にパーカー着てフード被って紫外線対策してくるんだよ?』
と、にぃから沢山の注意事項を貰い電話を切った。……一年ぶりの登校だ……。緊張より恐怖の方が心を占めてるけどにぃのため。がんばらなきゃ……!。
僕は急いで自分の部屋に戻り、お気に入りのうさ耳パーカーと制服を着て準備をする。日焼け止めはいいかな……制服ぶかぶかで大きいし、フード被っちゃうから日光に当たらないから、大丈夫だよね、うん。
少し大きめのショルダーバッグににぃのお弁当を入れて準備万端。
怖くなったり気持ち悪くなったら帰る、にぃとの約束。よし、頑張ろ。
「ん」
手をグッと握りしめ、一年ぶりに僕は自分から玄関のドアを開けた。
寮の廊下は人っ子一人通らず、僕は誰とも会わないでロビーまで来た。内心凄く安心してる。この調子で誰とも会わないといいなぁ……ぽてぽて、と歩きながらそんな事を考えてた。
「あ、那智くん?。外に出るなんて珍しいわねぇー?」
と、背後から声がした。
突然だったから吃驚した僕は、ゆっくりと後ろを振り向く。名前を知ってるってことは、僕の知り合い……なんだよね、多分。
「そんなに怯えないでちょーだい。お姉さん悲しいわ、那智くん」
悲しいと言いながらもクスクス笑っている。
フードの隙間から覗くと、
「…あ…いちゃん??」
「正解よ、那智くん。このこのー」
と、僕の頭をぐしゃぐしゃと撫で回すこの人は、寮長をしている愛ちゃん。見た目は凄く美人なお姉さんなんだけど、本当の性別は男のオカマさんなんだ。
「久し振りねぇ、本当。一年ぶりかしら?」
こくんと頷くと、また頭を撫でられた。
今度は優しく。
「そんなに経つのねぇ……那智くんはあまり変化はなさそうねぇ。身長伸びてる?」
ふるふると首を振るけど、それは僕の数あるコンプレックスの一つなんだよ、愛ちゃん。多分知ってて言っていると思うけど……だってニヤニヤしている。
僕の身長は平均身長よりかなり低い。……まだ成長期は終わってないはず……!。
「ま、そんなことより学校に用事かしら?」
僕の身長をそんなこと呼ばわりっ。うぅ、愛ちゃんは背が高いから……悔しい。
「にぃ……お…弁当」
「あら、俐人くん。お弁当忘れるなんて珍しいわね。届けに行くのよね?、無理しないようにね?。行ってらっしゃい」
「ん……いって…き…ます」
背中をポンっと叩かれてお見送り。
寮から出ても愛ちゃんは、僕に手を振っていてくれた。僕も手を振り返す。よかった、愛ちゃんに会えて。
「……お昼…」
ケータイで時間を確認したら後三十分程で十二時になる。直度いい時間帯だね。
と思っていたんだけど、流石に一年ぶりの登校には無理があったらしく道が全然覚えていなかった。あっちかな……あれ?ここさっき見た……って事を繰り返し
今に至る。
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