軽い、破裂音に似た響きが耳に届く。

「………イヴ…!」
「何ですか、兄様」

一人は背の高い、青の正装に身を包んだ青年。一人は少し小柄な、薄いネグリジェに身を包む少女。
少女の右頬は赤くなっており、青年の右手が空に残されていた。
青年はガラスのような青の瞳に激昂を灯しており、一方で少女はルビーの原石のような赤い瞳に何を灯すことない。
その瞳は少女というよりも、たくさんのことを諦め、輝きを無くした大人のソレだ。

「……君は、何て危険なことを……っ」

復讐の準備を着々と進めていくための前段階にある現在。
イヴの素肌はほとんど見えていない。腕も足も包帯で隠れてしまっているためだ。
いくら手当てを済ませてあるとはいえ、その白は痛ましい。

「何故、自爆覚悟で強行突破なんてしたんだ!」
「分かってるくせに、それが最善だったでしょう? アレを逃せばあの情報は手に入らなかった」
「けれど、君にもしもの事があったら……!」
「……そうね、私が居なくなれば駒が一つ減る。それに私があのまま倒れたら、私の手にした情報を渡す手段が無かった。そこはもっと冷静に考えるべきだった……」

しかし、そんなことどうでもいいと赤い瞳は語る。口数は少なくとも、自身を投げ捨てていることぐらいは汲み取れた。

「そうじゃないだろう! 身体を大切にしろと言っている!」

普段は落ち着いている声色が、厳しく張られている。それでも、赤い瞳は揺れることもなく。

「なぜ? 私の役目は裏方でしょう。情報を集め、操作し、兄様達がより安全に奴らに近づけるように舞台を整える。……身体に傷が付いたところで、何か不便するわけでも、」
「…………っ、アイリ――ッ!!」

名を叫び、アイリの肩を掴み、揺らす。
小さな身体はいとも簡単に揺らせるのに、その大きな瞳はやはり遠くを見据えている。
遠く、ではない。……クリスではなく、トロンを見据えているのだ。


「X」


その声に温度はない。暖かくも、寒くもなかった。

「私たちは、トロンの為に動く。そうでしょう?」

文章を読み上げる如く淡々と、光も闇も無くした声が。

互いに焦点を合わせあったまま。見つめるのは、……遠く。
苦虫を潰すように大きく表情を崩したあと、Xは無表情へと返った。

「……そうだ。復讐がために、動く。」
「変な情は、慢心と隙を生み、そして弱さになる。Xが教えてくれた事だよ?」
「……。外に出なければ情報も得られない。イヴ……その身を使い捨てるな。」
「……そうだね、僕らはまだまだこれから利用してもらうんだから。」

先ほどまであった、家族の糸はふつりと床に捨てられてしまった。
繋がる糸は復讐。憎しみの誓い。


そしてXとイヴは、目を伏せた。






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