「……兄様、クリス兄様」
「どうした?」
「……どうしたじゃないよ、くすぐったい……」

顔をしかめて天井を見れば、やんわり笑む顔と、父様と私と揃いの三つ編み。

「昼寝するんじゃないのか?」
「……そうだよ、でもくすぐったくて寝れない」

日曜日。研究所のみんなは長期実験班以外はほとんどお休みだ。自主的に手伝う人も居るには居るが、ごく少数。

……私は一段落ついたところで、他にすることも無く――デュエルは今ちょっと疲れていてまともに出来なさそうだ――私は昼寝を決行することにした。
ソファに座った兄様の、ひざまくらで。

……が。


「アイリの髪は綺麗だからな、触っていたくなる」

するするとさっきから私の髪を触り続けている兄様のせいで、眠れる気が全くしない。
人に髪を触られるのは、とってもくすぐったい。

「もー……にいさ、」
「……アイリ?」

人差し指を唇に当てられ遮られる。ちょうど、「しーっ」というジェスチャーだが意味合いは違うのがよく分かる。
目は口よりもたくさんを語る。つまりまぁ、「兄様」は違うんだろう。


「…………クリス」

少し邪魔だけど、指を当てられたまま名前で呼べば満足したのか、その手で頭を撫で始めた。

「もう……好きにして……」

観念して目を閉じれば、くすりと笑みが溢された。
とても眠たくて、あぁなんて安心できるんだろう。

「おやすみ、アイリ」
「…………おや、すみ」

撫でる手に誘われるまま、深い眠りへと手を離した。
掛け布団代わりの白衣が、ちょっとだけ気恥ずかしかった。




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