※ユキさんは霊体状態の遊戯も見えます。ので、普通に会話もします。


「あーうーーっ!!」
「また俺の勝ちだな、ユキ」
「どーしてええ……うう、流石、と言うか……」

本日4回目のデュエル。ボクは0勝4敗、もう1人の遊戯に全部持っていかれている。
悔しいけど、やっぱり彼は強い。策にはめたと思ったらいつの間にかはめられていたり、勢いに乗っても隙間をかいくぐって、逆転してしまう。

「でもユキも善戦だったぜ。ライフが200まで削られたんだ、焦ったぜ」
「……うん、そうだよね! ちょっとは上手くなったかな?」
「うん、この間よりも格段に強くなってるよ、ユキ!」
「ああ、腕は充分にある。あとはもう少し攻めに回れるようデッキの調整をするといいぜ」

遊戯と、もう1人の遊戯にも励まされ、使ったカードをデッキを戻す。
自信をつけたくても相手が強すぎる。……うん、頑張ろう。

遊戯は前より強くなってる、とは言ったけど遊戯ほどじゃないだろう。遊戯の成長は劇的に早いはずだ。もう1人の遊戯のデュエルを間近で見ているんだから。
どのくらい強くなってるだろうか。ちょっとした楽しみにもなっている。

昨日の夜、ふと思い立ったから「明日は一日中デュエルしない!?」と電話をして(おじいちゃんにはもうちょっと時間を見なさいとたしなめられたけど)、今日に至る。

遊戯と、もう1人の遊戯はあーでもないこーでもないとデッキ論争に入りかけている。2人の会話は正直難しすぎて頭がパンクしてしまいそうだ。
時計を見ると、お昼までもうちょっと時間がある。ふぅ、と緊張を解き、デッキを見返してみる。
…………ふむ。確かに効果重視の攻撃力の低いモンスターが多い。隙を作らないようにしたら火力不足になってしまったみたいだ。これらを少し攻撃力の高いモンスターにして、あとは魔法と罠の差し替えが……、

「……あー……おなかすいた」

どのカード入れようか。おなかがすいた……モウヤンのカレーって、美味しいのかなぁ……どうなんだろう。
ごろんと横になると、遊戯が気付いたらしい。

「あ……もう1人の僕、ごはん食べに行こう!」
「ん? ああ、そうだな。悪い、ユキ」
「やったああ! いいよ、今日はボクから誘ったんだし!」

遊戯の誘いに、勢いをつけて起き上がる。
曰く、もう1人の遊戯は食事にあまり興味を示さないらしいから、いつも食事にしようと持ち出すのは遊戯だ。
でもたまには気になるみたいだし、今度バーガーワールドにでも連れ回してやろっかな。
……もう遊戯が連れてってるかも。充分あり得る。

「お昼食べたら、カードショップだよね」
「うん! そしたらデッキ組み直して、今度は遊戯とデュエルだね!」
「よーし、やっとデュエルできるぞー!」
「じゃあまずは腹ごしらえといきますかっ」

ウキウキランラン、と言うべきか。食事よりもカードショップに行く方が重要なのは言うまでもない。

たまにこういう休日なんだよって杏子に話したら、「アンタ達ってほんとデュエルバカね……夢中になるのはいいことだけどさ!」と言われてしまった。
いいじゃない、デュエル楽しいし。杏子ももっとやろうよ!って言ったら「ついていけない」と一蹴された。……むう。

「ほら、行くぜ。ユキ」
「え、ああ、うんっ」

いけない、ボーッとしてた。遊戯がすっと身体に戻るのが見えた。急いでカバンを肩にかけ、デッキをホルダーにしまう。

「遊戯は出てこなくていいの?」
「相棒……、ああ。デートしてこい、ってよ」
「でっ……! もー、遊戯もおませさんだなぁ」
「全くだぜ。出ていてもいいのにな」

……もー、二人ともひどいよー、……って声が聞こえた気がした。遊戯とはまた今度、杏子も呼んでデートでもしよう。ボクは隣でデッキでも組みながら。





手近なファーストフードでお腹を膨らませて、カードショップへ。
カランカランと鳴った鈴、ちょうどいい空調、そして見渡す限り目に入る情報は全てカード、カード、カード!
あぁ生き返る。新鮮な空気を吸ったような感覚だ。
遊戯はもうパックとにらめっこしてるし……まぁボクも人の事は言えない。隣に並んで、どれをいくつ買うか、悩む。強化したいのは、通常モンスターだけど。

「……やっぱり、いざとなると悩むな…」
「うんうん……ん? 遊戯も悩むもんなんだ?」
「俺だって全部が全部、すぐに決められるわけじゃないぜ?」
「意外だ……いつもデュエルで迷わないからかなぁ」

そう見えるか?、と緩く笑うと、またにらめっこ。まぁ特に買うと決めていた訳ではないだろう。昨日の夜長に、急に誘ったわけだし。

そして少しボーッとしだした。多分、心の中で相談しているんだろう。……こうして隣に並ぶと、いつの間にか身長差が出来ているのに気付く。
いつも遊戯とは正面を向いて目が合うから、見上げるのはいつも不思議な気持ちだ。
いつもの遊戯基準で考えちゃうけど、でもやっぱり、空気に漂う凛々しさはもう1人の遊戯のもの。端正な顔立ち、ボクより長いまつげ。……かっこいいと、思う。
だからこそ、惚れてしまったのか、な。
早く想いを告げて玉砕してやろうかな。やっぱりボクみたいに男の子っぽい子より、杏子の方が魅力もあるし。
……杏子は胸も大きいし、とっても美人で、しかも頼れるし。良いとこずくめだ。幼なじみとして自慢の子!……同時にライバルにしたらもう勝ち目は無いんだけど。

「……?」

あ、やばッ、見つめてたのが……もうバレてるかな。
急いでパックに顔を向け、苦し紛れに「あぁーこれこれ!」と手を伸ばす。
くすり、ボーッとしてたのを取り繕うとしたら笑われてしまった。くぅ。彼は鋭すぎるんだ。

「なぁユキ」
「なーに、…えっ、」

パックを棚から取り出そうとしたボクの手に、遊戯が手を重ねる。やめてよ、心臓が騒いじゃう。
すごく綺麗な指だなあ。ずるい。ボクの手と交換してほしい。

「賭けをしようぜ」
「……賭け?」
「ああ、簡単な賭けだ。……お前が選んだこのパック、レアカードは入っているかどうか、だ」

いきなり何を言い出すんだ。しかも賭けって、何を賭けるんだろう。
遊戯の顔は見えないけれど、声色にはいつもの自信が満ち溢れている。

「えっと……何を賭けるの? カード?」
「いや、カードじゃない」
「…………え?」
「賭けるのは、――――」





ぎこちない動きでパックをレジに持って行く。
そりゃあそうだ、あんな賭けは無いだろう。たまにこういう読めない行動をするのはやめてほしい。心臓がいくつあっても足りないじゃないか。

「オレは、入ってると思うぜ」
「ぼ、ボクはできるだけ通常モンスターが欲しいし、入ってない! それにくじ運無いし!」

さっき選んだパック以外にも3種類3パックほど買ったのに、賭けをしたパックの中身しか頭にはなくて。
ああもう。お店を出て、すぐそこにあったベンチに座る。

「神様、おねがい……!」

ボクの心臓を守ってくれ、頼む。
両手で持つ、パック。手が震える。心の準備は無論、出来ていない。

「そこまで言われるとちょっと傷つくぜ?」
「嘘つけ!自信満々に言うなぁ!」
「仕方ないな、ほら貸せよ」
「あぁあああ自分で開けるもんー!!」

余裕しゃくしゃくにパックで遊ぶ高校生と遊ばれる高校生。とは言っても二人とも背は小さいけど。
端から見たら変な絵図かもしれないが本人達(少なくともボク)にとっては大マジな問題だ。

「…………!」

再びパックと向き合う。切れ目に手をかけ、心を落ち着かせる。どうか、どうかレアが入っていませんように、なんて祈るのは最初で最後だろう。

「…………」
「…………」
「…………」
「…………ユキ」
「(ホントにどうかどうかレアが入っていませんように……)」
「しょうがないな、ホラ」
「え、ちょっうわわわわわわわわわわわ」

頑張ってパックをひんむいてやろうとした瞬間、遊戯が手を重ねて一気にべり、と剥かれてしまった。
また心臓は大騒ぎしてるしやっぱり指は綺麗だしええーいこの!
ボクが包装から手を離せずにいると、遊戯が中のカードを確認しだす。
ちゃんとボクにも見えるような位置でやってる辺り、ニクいなぁ。するするカードを捲る指は軽やかで。
遊戯はカード名を読み上げてるみたいだけど右から左へ、流れてしまう。

……魔法、罠であることだけは確認した。

3枚目でようやく少し落ち着いて……、ああっ、効果モンスターじゃん、攻撃力低めの。

……4枚目。

「……クリッター。」

……これも効果モンスターだ……。アタッカーになれるモンスターは、出ていない。ボクってばくじ運がまるで無いなぁ。
そして、問題の5枚目。


「……聖なるバリア……ミラーフォース。」


遊戯がゆっくりと読み上げる。嘘だ、そんな。嬉しいはずの……レアなカードを当てた。ミラーフォースはまだ持っていない。でも、でも。

「…………うそ、え……」
「さて、ユキはレアカードを当ててしまった訳だ」
「うぐ……、」
「賭けに応じたんだ。言ったからにはやってもらうぜ?」

遊戯が持ち出した“賭け”は。

「さぁ、俺の指定した場所に口付けして誓い、1日従ってもらおうか」

……そう。言葉を選ばずに言い換えるなら負けたら自分からキスした挙句1日相手の奴隷をやるのだ。こんなの受けなければよかった。ボクの馬鹿……!

「まさかだが、ユキは逃げたりなんてしないだろ?」

正直逃げたい。でも、ボクだって決闘者。よりによって遊戯の前で逃げるわけには……ッ!

「あ!……で、でもほら、お昼からは相棒の方の遊戯とデュエルだし……!」

言い訳とか言い逃れはするけど。

「ああ、ならまた後日デートだな」
「うぐぐぐぐ……!!」
「そうだな、そっちの方が時間も長く取れるしいいだろうな。相棒もデュエルを待ち構えてる……そうだろ?」
「ううううううう……!」

完全に墓穴を掘った。だめだ、言葉で勝てるわけなかった。
コイツの逆転力は見習う所がある。どう見習えばいいのか分からないけど……。

「さあユキ、帰るぜ。相棒を待たせてるしな」
「むぐぐ……、」
「潔く諦めるんだな、俺から逃げる術なんて無いぜ」
「じゃあじゃあ! 忙しくてデート自体できなかったら!」
「それは無いな。時間ならいくらでも作れるだろ」
「デートに行きたくないって言ったら!」
「じゃあ、お前の持っていないこのカード……今後お前の切り札になりかねない、コイツを預かるぜ」
「あああボクのミラーフォースぅう!!」

パックを開けた体制のまま言い合っていた所を、遊戯がぱっと離れた。その手にはミラーフォース。

「おっと、ダメだぜ……」
「か、かえして!」
「デートの時に返してやるよ。観念するんだな」

ニヤリ。……意地の悪い笑顔だ。
それがまたかっこいいのはとっても悔しいけど。
遊戯はホルダーにカードを仕舞っちゃったから、もう手出しは出来ない。もう1人の遊戯は怒らせたらとっても怖いし。

「……く、…………分かった、分かったから、絶対に返してよ!」
「ああ、約束だ」
「約束だからね!」

うん、約束したから大丈夫だ。あとはボクが頑張ってデートを乗りきれば……。
…………デート。
…………デー、ト……、

改めて考えると死ぬほど恥ずかしい。ライフがいくつあっても足りないだろう、なんて厄介な永続罠なの……! デートのターンが来る前にライフが尽きてしまう。
顔がとっても熱い。コラ遊戯、くつくつ笑ってんじゃない……!

「ク、クク……、面白い顔してるぜ、ユキ!」
「こらっ! 人の顔を見て笑うな!」
「ハハ、悪い悪い。じゃあ詫びに1つ先に教えておいてやるよ」
「え、何……?」

遊戯がベンチを立った。

「何を教えてくれるって?」
「1日デートの前に、する事があるだろ?」
「え、……まさか」
「俺が指定する場所は……」

ここだ。

ふに、と遊戯の爪がボクの唇を刺激した。
……形が整っている。いつもの遊戯が几帳面なのがよく分かる。
いやいやいや、そんなこと今はどうでも良くて。
つまりこれは、キス……する場所の指定であって。遊戯が指差しているのは唇で。くちびるで……。つまり、つまりそう、頬っぺとか指先とかおでこじゃなくて、くちびる、なわけだ。

「…………、」

物が言えない。固まったまま遊戯を見ていると、遊戯はやっぱり余裕たっぷりだ。

「……さて、楽しみだな?」

くつくつ笑う彼が、帰ろうぜと指を離し、手を差し伸べている。

「……もう……好きにして……」

俯いたまま、その手を取る。
ボクよりちょっぴり大きい手が、確かに握り返してきた。
見てろよ、今にデュエルでけちょんけちょんにしてやるんだから。
弱々しいであろう睨みを利かすと、遊戯はそんな顔しちゃこわいぜーとひらりかわした。
主導権も手も握られたまま、それも悪くないと思ってしまうのは……まぁ。

仕方ない事だろう。





「今度はデュエルで勝ってやるんだから」
「そりゃ楽しみだぜ……お前にできるかな?」
「できるかな、じゃなくてやるの!」
「ああ、そうだな。もう立派な決闘者の顔だ……」
「ふふ、見くびっちゃダメだぜ!」
「どうでもいいけど、手汗びっしょりだぜ」
「えっ、それはその、やっぱり決闘者としてたぎるし!」
「フフ、そういう事にしておくか」
(……コイツわかっててやってる、絶対。)


(もう1人の僕ってば、ユキに意地悪だなあ)





短編に入れていいのか迷ったけど、まぁいいか。って事で短編です。長々しくてすみません。
王様のつもりで書いてたけど魔王様でもいけるかな?
もっと相棒相棒言わせれば良かったかなー←
あと指フェチなのがバレますね。遊戯王のみんな指ふつくしすぎますよね!


なっがくてすみませんでした読んでくださりありがとうございました!
拍手いただければ励みになります。




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