そこにあったのは痛み。ただひたすらな、痛みだった。
辛さもあったかもしれない。憎悪や、とにかく負の感情ばかりだった。

今の私は、喜びと恍惚に満ちている。
虚無に奪われ、無感動を漂い、そして光を見つけた。

私は、この御方のためだけに居るのだ。
私は、この御方のためだけに全て棄て。
私は、この御方のためだけに駒となる。

愛しているから。あなたは、コレと同じモノを不味いと吐いたけど。愛しているから。

「調子はどうだい、ユキ。」
「……もうじき、完璧となれましょう……」
「そうかい? さすがは僕の娘だ。いい子だね、ユキ」
「……ありがとうございます……トロン」

私は、もうじき本当のカラになる。
媒体となるには、こうするのが都合がいい。

「いい闇だ、どこまでも深い」
「……貴方とお会いする前に作った、闇です…………呼び起こせば、それはもう、」
「ああ、今でも十分なくらいさ。」
「…………もう、すぐ。完成しますから」

トロンは何も言わず、幼い指で、そうっと頬を撫でてくださった。
ああ、幸せだ。トロンの、人形となれる。
……歪んだ幸せは、不幸の裏付け。ぐずりぐずり闇を広げる。どこまでも堕ちてゆく。
それでもいい。それでいい。

「可愛いユキ……どこまでも僕に尽くしてくれるんだね」
「貴方様の、お力に……貴方様のためになることが、私の……しあわせです」
「それが君の美しさだ。……幸せ、か。なんとも皮肉だねぇ」

そして闇を完成させる、闇を闇としてどこまでも深くするスパイス。

「……憎いかい? 僕を裏切り、こんな姿にした……フェイカーは。」
「………………憎いです。貴方様を裏切り、このようなお姿にした、ヤツが……憎いです……!」

憎しみは、奥深く。
ずぶりと闇が広がる音がした。構わない。これが私の力の源だから。この力が、トロンのためになるから。

「ぜったいに、ゆるさない……絶対に……!」
「そうだ、憎め、憎むんだ。いくら憎めども飽き足りないくらいに……! それが力となるのだからねぇ……!」
「仰せの、通りに」

私は駒。トロンの駒。闇と憎しみを抱え、撒き散らす報復者。
それで構わない。今のこの御方が、それを望むなら。


「いい子だね。……可愛い、可愛い、僕のユキ……」


それが私の望みだ。


それが、間違いであったとしても

歪みの中で生み出した幸せを、






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