この時期、服を買いに行くと必ず特設コーナーがあちこちで組まれている物がある。 水着だ。 最前列には必ず、可愛らしいビキニか色気を振り撒くビキニ。むしろビキニしかない。 露出しようぜ!、と誘っているのだろうか。 「……そっか、そんな時期か」 「毎日暑いもんねー」 「そ、そうだね……」 まぁボクが買い物に来るなんて杏子と遊戯と一緒な訳で。 遊戯はちょっと恥ずかしげだ。まぁ仕方ないか、男の子だし。 遊戯が気まずいのは分かってはいても女心はくすぐられる。 吸い込まれるように水着特集へ誘われる。 「ねえねえ、これとか杏子に絶対似合う!」 「ほんと? でもこっちもかわいー!」 「ふ、2人とも大胆だぜ……」 ああ、ほんとに恥ずかしがってる。 まあちょっと多目に見てくれ、遊戯。すまん! 「あ! ほらほらコレ!」 「あ、かわいい……けど、あれ? 杏子のにしてはちょっと子供っぽ、」 「違う違う、ユキの分!」 「………………な゛っ!」 杏子が引っ張り出したのは小さなフリルの付いた、桜のようなピンク色のビキニ。 ネックリボンで、シンプルだけどフリフリヒラヒラだ。 いや確かにボクは幼い顔つきだけど……、というかそもそもビキニ自体! 「ボクはビキニは……」 「いいや、今年こそはユキもビキニにしよう! ね?」 ……杏子は本気だ。今までも泳ぐとなると何とかしてビキニは避けてきた。 スクール水着で行ったり、ワンピース型にしたり、Tシャツを着たり、ボーイッシュなスタイルのやつを選んだり……。 というか、隣に超の付くナイスバディの杏子がいるのに、ボクは……つるぺったんだ。 ソレを人様に晒すなんてそんなの……今年も、逃げる。 「ボクには無理だって! 毎年言ってるでしょー」 「えーっ! そんなこと言ってー、着ればいいじゃない! 遊戯だって見たいでしょ?」 「エッ……、まぁ、その……うん」 ちょっと待て、なぜ遊戯。そして遊戯も答えないでってば! 「ボクはビキニなんて恥ずかしくて着れないっ!」 まずい、今まで水着を選ぶ時は杏子と2人……1対1だったからなんとかなってきたけど、今回は2対1だ。 ……まずい! 「ホラホラ、そんなこと言わないでさ!」 「僕も、似合うと思うよ!」 ああ、ほら! 言わんこっちゃない! 「いやその……、…………………」 「ね、ユキ! これにしよー!」 「すごくかわいいって! ほら合わせて!」 うぐ。2人共、すごく顔を輝かせている。……すごく……断り、にくい。 「……や、でも、ボクは……」 「もー、ホラ早く!」 「鏡、あっちにあるよー」 杏子が水着を片手に手を引く。 ちょっと待ってくれ! 私には! 無理だって! 心の叫びは所詮声になってないからスルー。 ……分かっちゃ、いたけど。多分もう手遅れだ。 ピンク色のひらひらが、体に当てられる。 「ね、雰囲気ピッタリでしょ!」 「流石、杏子だぜー」 2人は私を置いてきゃっきゃ言ってる。……遊戯、まだ顔が赤いよ。 とっても、楽しそうだ。 「………………好きにしてくれ……」 決闘において、ボクはサレンダーは絶対にしない主義だ。降参なんて。 でも……決闘以外なら、別にカウントされないよな……? 手に持たされた購入が確定してしまったピンク色を見て、来るべきプールの日を思いやる。 ……まあ、なんとかして体は隠すとして。 そして遊戯と杏子には水鉄砲でも食らわせよう。そう思いながら、買い物続行。 ……手近にある露出高めな水着でも持っていってやろう。遊戯がトマトみたいになるだろうな。で、杏子が苦笑するんだ。 まぁ、これくらいのお返し、かわいいもんだ。 夏はまだ、これから。 back |