「亜澄ちゃんっ!いるっ!?」 「はいっ!?」 人気の少なくなった夕方の校舎。がらがらっ!と派手な音を立てて、教室のドアがいきなり開いた。廊下をばたばたと走る音がやけにうるさいなーと思っていたが、それはここへ向かっていたらしい。ドアの音と自分の名前を呼ばれたことで、私の心臓は飛び上がり、持っていた雑用の紙を落とした。 「つ、綱吉君!」 「良かったー…あ、ご、ごめん!驚いたよね!」 「だ、大丈夫…。」 振り向いた先には、密かに憧れてる人、綱吉君が息を荒げていた。私が紙を落としたことに気づき、慌てて私の方に歩いてきてすっとしゃがみ込んだ。私も椅子から立ち、散らばった紙を拾い始める。床を見つめてプリントを拾ってはいるものの、視界に入る彼の指先をつい目で追ってしまった。ほんとごめん…という綱吉君の申し訳なさそうな声が聞こえる。むしろいつもより近い距離にいれることに喜びを噛みしめているなんて思いもしないのだろう。 「えと、どうかしたんですか?そんなに慌てて…。」 「あ、そうそう!」 紙を拾いながら声をかけると、綱吉君はここに来た目的を思い出したらしく、顔を上げた。拾って持っていた紙を床に下ろし、私の顔を見る。オレンジ色の光で満たされた教室で、綱吉君の髪や瞳は、さらに明るい色に見えた。 「あのさ、明日提出の数学のプリントあったじゃん?」 「プリント…?」 思わず頭をひねる。明日…数学で提出しなければならないプリントは、最近では1枚しかない。 「あぁ、あれはたしか…」 昨日提出だったと思うんですけど…と続けようとした私の言葉を遮り、綱吉君はパンッと手を顔の前で合わせた。 「まだ出来てないから、これから手伝って欲しいんだけど!」 「・・・・・・・・・。」 「あ…やっぱりダメ…かな…?」 ちら、と片目だけを開け、心配そうに私を見つめる綱吉君。完全に提出日を明日だと勘違いしているが、今訂正しようものなら、このチャンスをみすみす逃すことになるだろう。 「私で…よければ…。」 私がそう呟くと、綱吉君はぱぁっと顔を輝かせた。 「本当!?ありがとうー!」 極上の笑顔を見せられ、私はちょっと罪悪感にもさいなまれたが、 (…間違えてる綱吉君が悪い!) と、勝手に自己完結させ、その笑顔を独り占めできる幸せで緩む頬を必死で抑えた。 |