沢田君が、変わった。

他の人からは分からないかもしれないけど、確かに変わっていると私は感じている。
見た目がぐっと変わったわけでもない。言動が変わったわけでもない。でも明らかに何か昨日と違うのだ。

中学生になってから同じクラスになった沢田君。勉強もスポーツも苦手で周りからはダメツナと呼ばれているのをよく耳にする。
沢田君本人はあはは、と笑ってごまかすだけで、なんとなくあきらめたような雰囲気を持つ人、というのが私の印象だった。
だが、ある頃を境に傷が急に増えたり、休む日がいやに続く日があったりした。隣同士の席になったタイミングでもあって、最初は「大丈夫?」と尋ねることもあったが、そうすると彼は気まずそうに「大丈夫」と返すだけで、ほかの話題に移ろうとする。聞いてほしくないのだと思い、私もだんだん怪我には触れないようになっていった。

話す話題に気を遣うようになり、何でもない雑談を多少するだけの関係だった、そんなある日。

「…え?」

教室に誰かが入ってきた音でふとドアの方を見やると、沢田君が登校してきていた。
昨日と明らかに違う。擦り傷も確実に増えているし、顔はばんそうこうだらけ。
だがそれだけでない。
細くてすらっとした印象の沢田君の腕は昨日よりがっちりしていたし、顔つきも急に大人っぽくなっていた。
まるで急に何ヶ月もワープしたかのように。それもとんでもない修羅場をくぐってきたようだった。

「あ、おはよう。」
「…沢田君?」
「・・・・?なに?」

ぽかんとする私を見つめ、訝しむその表情にすらなんだか大人っぽさを感じて急にどぎまぎしてしまう。沢田君が椅子を引くために一瞬目を椅子の方にやったことをいいことに、つい彼の視線から目をそらしてしまった。

「や、あの…沢田君が昨日と違うかな…?なーんて…。」

言葉を紡ごうにも、どう言っても失礼な言い方になる気がしてしどろもどろになってしまう。
そんなに仲がいいわけでもないのに昨日と違うなんて、しかも何だかたくましくなった気がするなんて気持ち悪がられてしまいそうだ。
いたたまれなくなり、ごめん忘れて!と逃げようとしたそのとき。
がたん!と大きな音がした。
慌てて視線を戻すと、そこには座ったばかりの椅子から器用に転げ落ち、慌てふためいた様子の彼がいた。

「や!これはそのー!!」

ごめん俺呼ばれてるから行くね!と私が何か言う間もなく、風のように沢田君は教室から出て行ってしまった。ひぃい!という情けない声も遠くから聞こえる。

「……ええ…?」

顔が熱い。急に大人っぽくなったと思ったら一瞬でいつもの沢田君で。でも確かに変わっている雰囲気もあって。

「…これがギャップか…」

そんな私の呆けた言葉と熱の冷めない頬は、私の中の何かを証明するには十分すぎる証拠になってしまった。

もう恋は始まっていた



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