ちょっとだけ

「たーかおっちー!」

「きーちゃん、ストップ!!」

「あうっ。」

ピタ、と動きを止めたきーちゃんこと黄瀬涼太。
世間一般ではキセキの世代やらモデルと持て囃させてる反面、黒子や真ちゃん曰く駄犬の、だ。

さて、では何故その彼がここ秀徳高校にいるのか。

そーっと後ろを向けば…

「たーかーおー?」

にっこりと笑みを浮かべた

「ははは……すんません!!」

宮地サンがいた。

(まぁ、予想はしてたけどね!?)

今ならスライディング土下座できる。そんくらいの勢いで頭を下げた。

[…〜〜〜〜〜っもう、無理っス!!」

「うわぁっ!?」

「…ちゃんと駄犬はリード持って躾とくのだよ、高尾。」

「緑間っち酷くねっスか!?」

そう言いながらも、俺の背中でブンブン尻尾を振ってる(ように見える)きーちゃん(犬)
いや、酷いのはきちゃんもだけどね…?なんてことは思っても、嬉しそうに尻尾を振ってる(ように見える)きーちゃんの顔を見てしまえば何も言えない。

(俺って甘いのかなぁー…?)

「黄瀬、海常の練習はどうしたのだよ。」

「監督の都合で早めに終わった「笠松から、黄瀬がそっちで迷惑かけてないかってメールが来たぞ?」あうっ…。」

(あっ、耳としっぽが垂れた。)

ほんっときーちゃんはわかりやすいなぁー…。
素直っていうか…ほんと、犬だと思う。駄犬かどうかはさておいて。

「黄瀬、戻れ。」

「…宮地サン、これ。」

「ああ゛?」

ガサゴソとカバンを漁て、取り出したものを宮地サンに渡した瞬間、宮地サンが固まった。

「これは…!」

「あっ、大坪サンにはこれっス!」

「あっ、あぁ…?」

「お前、これどうやって手に入れたんだ!しかも、サイン入だと…!?」

渡された袋を握る手が震えてる。

(きーちゃん、まさかワイロ…。)

モデルである彼だからこそなせる技だろう。

「いっつもお世話になってるお礼っす!」

「黄瀬、お前「緑間っちにはこれっすよ?」

「俺は……これは、猫だるま!?」

「明日のラッキーアイテムっすよね?」
「い、いいのか…!?」

ちょっと待て、真ちゃん。
さっき、俺はこんなもので釣られない的なこと言いかけてたよね!?
それはあっさり放棄っスか?

(あっ、きーちゃんがうつった。)

「高尾っち、借りてっていい『いいわけねぇだろ、アホが!!』か、笠松先輩!?」

『他校に迷惑かけてんじゃねぇよ!!
前は誠凛でも、黒子っちくださいとか吐かして迷惑かけたんだっけか?ああ゛?』

「す、すんません!!」

笠松さん、本気でキレてる…。

思わず木村サンと目を合わせて、同時に苦笑いを零した。

『まぁまぁ、笠松。』

『小堀…、』

『黄瀬は楽しんできていいぞ。』

「え?」

『俺らはこれから監督の奢りで忘年会 in 焼肉食べ放題だからな!リア充爆発しやがれ!』

そんな言葉と同時に、聞こえてた声が消えた。

「え、え、…えぇ〜〜〜〜!」

「まぁ、そういうことだ。よかったな、黄瀬。」

「うぅ〜〜〜〜。」

「高尾ももう上がっていいぞ。」

「リア充爆発してこい☆」

(宮地サンが言うと冗談に聞こえねぇえぇぇえぇええぇぇ!)

「ふんっ、今日だけは見逃してやるのだよ。」

「ありがとうございます!きーちゃん、行こう!

お疲れっしたァ!!」

我ながらまるで嵐のようだと思う。
そんなスピードで体育館を飛び出した。


「さむっ…。」

「ちょっ、ちょっと待ってよ、高尾っちぃ〜〜〜〜!」

「なに〜?きーちゃん!」

足を止めて振り返ればパタパタと駆け寄ってくるきーちゃん犬。

「高尾っち、ほんとにいいんすか!?」

「えー。うちまで乗り込んできたの、きーちゃんの方じゃん!
しかも、ワイロまで持ってさ!」

「いや、そうなんすけど…。」

「大丈夫だって!とりあえず、どうする?」

「んーとりあえず夕飯にしないっスか?腹減っちゃって…。」

へへへ、と照れ笑いをするきーちゃんにつられて、頬が緩んだ。

「対抗して、俺らも焼肉行く?」

「いいっすね!森山センパイに自慢写メ送ってやる!」

「うわっ、森山さんかわいそー。きーちゃん、いい性格してるね!!」

「そう言って笑ってる高尾っちもいい性格してるっすよ〜?」

ケラケラと笑い合えば、寒さなんか吹っ飛んで。
年末のどこかせかせかした雰囲気とは逆に、のんびりと夜の街道を歩く。

「んで、それから〜…。」

「あっ、ねぇきーちゃん?」

「何スか〜?」


「夕飯食べたらさ…。」


いつもとは違うことをしてみない?

寒さのせいではなく紅くなったきーちゃんにちょっとだけ挑発的な笑を零せば。

「高尾っち…手加減しないっスよ?」

「もちろん。」

君はあっさりと落ちて。


いつもからちょっとだけ外れた道を進んでみようか?


end

2013/01/04.


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