love you ...
知っていた。
アイツの目が決して俺に向くことはないことを。
アイツの見つめている背中が振り向くことがないことを。
それを知りながら俺は何も言えない……いや、言わなかった。
アイツだって気づいていながら、必死で気づいてないフリを続けている。
本来なら、現実を突きつけるのが優しさなのだろう。
だが、俺にはできなかった。
いつかその選択が高尾を…そして何より俺を傷つけることが恐かった。
「宮地サン。」
「あ?…んだよ。」
部室の中から聞こえてきた会話。
『遅いぞ、高尾。』そう言おうと思い、言いかけていた口を何とか噤む。
ノブを捻ろうとしていた手も止める。
「おい、バカ尾?」
「宮地サンは……幸せ、っスか?」
「………あぁ、幸せだよ。」
「そ…っすか。」
今、中でアイツがどんな表情をしているのか。
想像するのは容易だった。
「…変なこと訊いてすみませんでした。」
「あ?…あぁ…、」
「んじゃあ、お先に!
お疲れ様っしたー。」
「ちょっ…バカ尾!?」
すっと、暗い廊下に光が射した。
「真ちゃん…?」
廊下に立っている俺に、驚いたように目を見開くも、それはほんの一瞬で。
次の瞬間にはもうへらり、と笑みを浮かべて
「悪りぃ、待たせた?」
なんて、言い放った。
バカか。
「自ら自身の傷を抉るようなことをしてどうする。」
思わず、言ってしまった。
言うつもりなど、毛頭もなかったのに。
「……気づいてたのかよ。
しかも、盗み聞きとか性質悪いぜ。ほんとに。」
「部室で話してるほうが悪い。」
「そりゃまぁそうなんだけどさ…。」
暗い廊下と俯いたままのせいで表情がまったく読めない。
「けど、ちゃんとケジメつけないとさ…何も手ぇ付かなくなりそうだったんだよ。
あの人と同じ顔で同じ性格の人がいたら、って何回も考えちまう。
けど、それはあくまでもそっくりさんであって“宮地清志”っていう俺の好きな人本人じゃないんだよな。」
「高尾…。」
「大丈夫。
まだ吹っ切れてねぇけど…でも、少しずつでも忘れていけるから。
あっ、でも俺が宮地サンを好きなったってことは忘れねぇかも。」
やっとあげた顔はニッと笑みを浮かべていて。
いつまでも足を止めたままの俺とは違っていた。
「ほら、帰ろうぜ。」
「高尾。」
「あ?」
「…お前は幸せか?」
「…あぁ、幸せだ。」
もう少しだけ、想わせてくれ。
いつまで好きでいるのかわからないけど…でも、いつかいい想い出だったと言えるまでは。
love you ...
お前が好きだった。
そのまっすぐな瞳が、笑みが、悔しがる表情が。
何より、あの人の背中を見つめているその姿が。
俺はずっと好きだった。
end
坪宮←高←緑でした。
大坪さん出番なしですみません。
宮地サンはたぶん、高尾の視線に気づいていたと思います。
そうだと嬉しい←2012/09/07.
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