彼の隣で笑う君
ずっと注目していた。
王者秀徳の1年レギュラー。
キセキの世代の彼と同じく、先輩たちを押しのけてスタメンの座を奪い取った。
高尾和成。
彼は別にキセキの世代でもなんでもなく、それでも王者のスタメンになった。
それはどことなく自分と似ていて。
だから、皆が彼−緑間真太郎−に注目してスカウティングを行う中
僕はその中で、こっそりと彼だけをずっと見ていた。
的確なパスと、冷静な判断力。広い視野。
どれもが僕には眩しくて、同時に思っていた。
彼と戦ってみたい、と。
あの強く真っ直ぐな瞳をコートの中で感じたいと。
ずっと思っていた。
しかし、その機会は中々巡ってはこなかった。
決勝リーグには、誠凛があがってきた。
彼のいる秀徳は決勝リーグ予選の決勝で誠凛に負けてしまった。
けれどまだ冬があるーーー。
確かWC予選出場権は各ブロック1・2位に与えられるはずだ。
2位の秀徳はきっと、WC予選を勝ち抜く。
そして、主将の言葉。
『WC予選、見に行くか?』
誠凛VS秀徳戦。
突然のことに言葉は出ず、ただ頷いた。
やっと彼の試合を生で見れるーーーー。
試合の結果は引き分け。
甲乙つけがたい試合だった。
しかし、僕は後悔した。
こんなにも注目していた彼にいつの間にか恋していたことに気づかされてしまった。
しかもそれはもう叶わないことがわかっている恋。
気づいたと同時にもう失恋してしまった。
彼の瞳には、いっつも隣にいる緑間君しか映っていない。
他のメンバーに向ける視線と彼へ向ける視線は明らかに違っていた。
しかも、チーム内の誰よりもあの2人の息はぴったりで。
同じSGとしてしていた嫉妬は、彼を独占できることへの嫉妬へ変わった。
SGとしても、彼に対する気持ちでも僕は勝てない。
きっと向こうは、僕の気持ちなんか知るはずがない。
話したことはおろか、直接あ逢ったともないのだ。
「…主将、すみません。
先に帰ってもらってていいですか?」
「おーわかったわ。」
主将は頭がいい。
きっと僕の気持ちなんかあっさり見透かされているんだろう。
軽く手を振ると、出口へと向かう波に消えた主将の背中。
小さな小さなため息を吐いたそのとき、
「あっ、君、桐皇の桜井君だよね!?」
「えぇっ!?
スミマセン。そうです。」
彼が、声をかけてきた。
何で、なんて訊けない。
もう、頭がついていかなかった。
「やっぱおもしれーな、桜井君!
桐皇のスカウティングの時から思ってたんだけどさ。
ずっと話してみたいと思ってたんだよね。」
「え…?」
「ほら、キセキの世代獲得した学校でキセキ以外の1年レギュラーじゃん?
何つーか、ほら。立場が似てるからさ。話してみたかったんだよな!」
そうただただ素直に言って笑う彼。
「WCで当たったら、そん時はよろしく!」
「…こちらこそよろしくお願いします。」
「ぜってー負けねぇからな!」
「僕だって負けません。」
思いのほか、きっぱりと言葉が出た。
キセキの彼には負けてしまった。
けれど、もし。
試合で彼をSGとして倒せたらーーーー。
彼の隣で笑う君は、僕に目を向けてくれますか?
end
2012/08/27.
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