「あ、あの…」


「………」




パタン、と、ドアが閉まる音とともに彼は姿を消した。私は取り残された自室で彼に向かって空を切った腕を仕方なく下げた。そして自然と漏れたため息。今日も何も出来なかった。


私はチェスの兵隊の作戦参謀をやっているペタと付き合っている、はず。本当は私が彼に拾って貰った事を良いことに彼についていたのだが、そのうち私は彼の事が好きになってしまっていた。まぁ、馬鹿正直な私は必死こいてアピールを続けて…そしてやっと認めて貰って結ばれた。



はずなのに!



彼は私に何もしてくれない。
はっきり言ってつき合う前と今で変わる事なんて少し話す回数が増えたくらい!話にならないわ!!





「ペタの馬鹿…」




ちぇっ、と舌打ちしながらでた文句は一人の寂しい部屋に少しだけ響いて。なんか どうしようもなくなって私は静かに部屋を出た。私がうるさいから名目だけ付き合ってくれてるだけとか?本当は私のことなんとも思ってないの?そんな思いが募るにつれて目頭が熱くなってきた。



「や、やだ……」



こんなことで泣くなんて…
歪む視界を必死で服の袖口でかきわければ、目の前にいつの間にか人影。そしてそれはいつの間にか私の目の前まできていた。



「珍しい所見ちゃったなあ。ニコラ、泣いてるの?」


「ファントム……」


「ペタにいじめられた?」



口を開いた本人はファントム。
いつも通りの笑みを浮かべて私の目の前に立っていた。ファントムに泣いてる所なんて見られたくなくてさらにぐしぐしと目をこすった。ああ、恥ずかしい!



「なんでもないよ、目にゴミが入っただけなんだから…気にしないで」


「素直じゃないなあ、君も、ペタも。」



……?何を言っているのかわからなかった。ペタが素直じゃない?いつもファントムの前で素直なのに。ハテナマークを頭に浮かべた私を小さくファントムは 笑ってまた口を開いた。



「ペタはさっき一番奥にいたからね、ちゃんと素直に言ってごらん。」


「なんで…?」


「君が素直になったなら、ペタもきっと素直になってくれるよ。じゃあがんばってね」


「あ、ありがとう…ファントム…」



私が理解出来てないうちにファントムはひらひらと手をふって私とすれ違っていった。何回話しても不思議な人だと思う。まぁファントムの情報に嘘はないだろうからそのまま廊下を奥へと進んだ。


少しいけばペタをすぐに見つけた。黒い漆黒の服の裾を後ろからそっと掴む。するとぴくっ、とペタが反応して横目で私を見た。




「何のようだ、」


「……」


「仕事中だぞ、邪魔するな」


「ねぇ、ペタ…」


「…なんだ?」


「私って…邪魔?ペタにとって…邪魔な存在なの?」


「い、きなり…何を言い出す?」


「だって、さ、変わらないんだもん。少し前も、今も。……ペタは私に何も言ってくれないし何もしてくれないんだもん!!」



いつの間にかあげた声は私の想像よりはるかに大きくてペタは目を丸くして驚いたように私を見た。そんな目で見ないでよ、私は貴方の恋人だよ?少しくらい私を見てくれてもいいでしょ?




「……私が、」


「え?」


「…私が本当に何とも思っていない奴と…付き合うとでも思ったのか」


「それは…」



その時、私の身体はすっぽりとペタに包まれた。いきなりのことでびっくりしてしまって私は何も話せない。



「え、え…え、ペタ?」


「…こ、んなこと…出きるわけないだろう…」


「え?」


「普段から、こんな恥ずかしい事…、出きるわけがないだろう!!」



どきどきと高鳴る胸を押さえてちら、と上を見るとペタの頬はほんのり赤くなっていて。そんな表情をみたら私、愛されてたんだって実感と、それに加えてなんてひどいこと言ったんだろう。って気持ちで目頭がじんじんする。



「…な、にを泣いている、」


「うれ、しく…て…っ」


「なにがだ、」


「ペタに好きって思われててよかったなぁって、思ったから…」


「…次そんな事気にしたら…」



ペタが何かを言いかけて、途端に私の耳もとで息混じりのペタの声。私は頭がパンクしそうな程の幸せな混乱に落ちたのは私たちだけの秘密。






恋愛観は人それぞれ

(いつでも貴方は私を見てくれていたのなら、それに見合う笑顔を見せるわ、)







100507.


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