悲しい 悲しい夢をみた。

貴方がいなくなる夢を。


私を突き放して、戦場に、
とりつかれた貴方の夢。






此処はチェスの駒のアジトとなっている、レスターヴァ城の一室。夢なんて気づけば忘れてしまうものだから、もうはっきり覚えているわけでもないけれど。だるい体を起こして静かに頬に触れば寝ながら流したのか涙の跡がうっすら残っているのがわかった。


私はチェスの駒のビショップクラスとして戦っている駒だ。ビショップクラスとなればかなりの力になる、が、なれない涙は自然と止まらなかった。

夢に出てきたあの人はきっと…チェスの参謀、ペタだろう。
そっと立てた予想と夢の中の彼を一致させる。


やっぱり。
だってあんな火と血の中にいて美しいと感じてしまう人なんてそうそういないのと、流れる金髪が証拠だもの。
私はとりあえずペタの恋人だけれど、彼が何を考えてるかなんて分かるわけもなくて。




「ニコラ、入るぞ。」


この声は…
ふと無意識にドアの方向をみて相手を確認しようとする。まぁ確認する必要などないんだけれど…私の部屋にノックなしで入ってくる男性なんてファントムとペタしかいないから。



「ペタ…どうしたの?あたしに何か用あるの?」

「用がなくては来てはいけないのか?」


ペタの顔がすこし不機嫌になるのがわかった。別に否定してるわけじゃないけど…
そんなことを思っていればツカツカとペタは私に歩みよった。



「会いに来た。それだけだ…多少時間が空いたのでな。そんなことより…」


「…?」


「…泣いていたのか?普段はちっともそんな素振り見せずにいるというのに。」



ペタはあたしの涙の跡を細長い指でつーっとなぞる。そんな指先にさえ愛情を感じている私はもう大分彼におかされているのか。私はその綺麗な細長い指に手を重ねて彼を見つめた。




「なんでもない、なんでもないよ。」


「……私に話せない事なのか」


「違う、話せるけどね。なんか他の人に話してしまったら実際に実現しそうだから言わないの」


「実際に…?」





ペタは首を傾げた。そしてうかない私の表情を見て眉間にシワをよせた。理解できてないみたい。そりゃあ何もはなしてないもんね。ふっと私が微笑んで彼を見返して口を開く。



「ね、ただのくだらない戯れ言なの。もう、忘れて。」


「断る。」


「はっ……?」


「何かはわからんが、お前が苦しんでいるというのに私はそれを見ているだけだなんて許されると思うのか。」





私は予想外の答えに黙ってしまった。心配、してくれている。それだけで私にとっては十分なのに。





「……そんなに言うなら……怒らない?」


「…あぁ」


「あのね、ペタが…私を置いていく夢を見たの。妙にリアルで…戦いにのまれた貴方を見た……」


「………」




ペタはびっくりしたように目を見張っていた。私は口から出て行った言葉は実現しそう、といったが本当にそう思う。ここまでは言えないけどそのままにこりと私は笑った。




「所詮は夢よ、気にしないで」


「…………お前は、」


「え…?」


「……私が本当にニコラを捨てると思ったのか」




途端に私の身体が温まる感覚。ペタの一回り大きい身体が私を上から優しく、だがしっかりと、包み込んでいた。あぁ、彼の匂いに反射的に心がとくん、と脈うつ。



「私はお前を決して一人にはしない。だからそんな無駄な心配などするな、」



普段より優しい低音。しかしはっきりと。
私は目頭が熱くなるのがわかってそれを隠すように彼の背中にそっと腕を回した。




「…うん、ごめんなさい……」









貴方の愛を近くで感じて、
(悲しい夢は所詮夢だから、)(心配になどなれないくらいに私はお前に愛を注ぐ)








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