「ちょっと!パパ!遅刻する!!!」

「まてって…すぐに直すから…」

「もう!!なんで早くに確認しておかないのよ!!」



ママの怒鳴り声にやれやれと肩をすくめながらがちゃがちゃと車のエンジンをいじくるパパ。その周りには大きなトランクに鞄がいくつか。朝の八時を越えてそろそろ出発の時間だ。

何を隠そう今日はホグワーツ入学の日!キングスクロス駅に行かなければならないのだけどいきなり車のエンジンがおかしくなったとかなんとかで修理のための立ち往生状態。そろそろ家を出ないと時間がきつい。



「本当になんとかしてよ!この荷物じゃあ身動きとれないしマグルの前で姿現しするわけにもいかないんだから!」
「ほんと、あと、すこ……し!!なおった!!!」



エンジンのかかる音がしてパパが顔をあげたのを確認すると、ママがトランクを車に放り込んで鞄を押し付けた。やれやれ。朝に弱いのは家族みんな一緒ってことね。全員荷物を積み終わってバタンとドアの音がしてパパが乗ってくると車がするりと発進した。
振り返ると家が遠くなっていくのが見える。
ああ、ここに帰ってくるまで次は何ヶ月後なんだろうって不安ともいえない気持ちが頭を過ぎ去っていった。ちょっと寂しい。だってまだ友達出来るとかわからないし。そもそもどこの寮にはいるのかがわからなすぎて迷走していて昨日は眠れなかったせいで眠い。



「ちょっと、大丈夫?ミリア」

「へいきへいき…」

「何か不安でもあるのか?」

「そりゃあ友達できるかなーとか、魔法うまくつかえるよーになるかなとか、」



別に自分はコミュニケーション能力皆無ってほどじゃあないと思ってるしそれなりにどこの寮でもなんとかやっていけるとは思う、けど。一人の寮生活。不安、に、変わりはない。



「大丈夫よ、そんなことどうにでもなるわ」

「ママの言うとおりだ。どこの寮に入ろうとお前ならうまくやっていけるさ」

「そ、そうかなぁ…」

「勿論!まぁワガママを言うならママの入ってたグリフィンドールに入ってほしいんだけど」

「なにを!そんなこというならこっちだってハッフルパフに入ってほしいさ」



出身の寮の話を持ち出したら白熱していく両親の会話。やっぱり出身寮ってこだわりがあるんだなぁなんて思う。七年も同じ場所で長く家みたいに過ごしていくんだ、愛着がわかないわけがない、か。



「…パ、パパとママの寮が素敵だってことはわかったけど、他の二つは?レイブンクローとスリザリンはどんなところなの?」


私の言葉に二人は顔を見合わせて少し考えたように話し始める。



「んー…どんなところ、って言われると困るわね、基本他寮には入れないものだから…
でも基本的に寮の色をモチーフに作られてるものだから緑か青にあふれてるんじゃない?」

「まったく、適当だな…クレアは…
でもまぁそういうことだ。レイブンクロー寮は展望台の近く、スリザリン寮は地下牢に作られている。寮の雰囲気は……まぁ、それぞれだけどレイブンクローは変わり者から秀才まで、スリザリンは…気の強い奴が多いかな。」

「そうなの?」

「まぁ、他の寮はともかくスリザリンは色々曰く付きの寮でもあるわ。でもいけないわけじゃないのよ。その中でも優秀な魔法使いは…優秀なんだから、」



少し二人の雰囲気が微妙ななんともいえないものになる。確かにいろんな噂を聞くし、ホグワーツのことは自分でも少し調べた。別にスリザリンが闇の魔法使いを多く出していることはわかってはいるけれど、それが一概に悪いことなのかはわからない。普通の人もいるはずだもの。
そんなことをおもっていると車が駐車スペースに音を立てて止まった。周りにはたくさんのマグル、と雑踏、それから大きな駅。



「さぁ、いこうか」

私は車から降りて駅をみあげた。






─────────












「…で、噂の9と3/4番線って…本当にここなの?」

「ええ、そうよ」

「あの、見た目…」

「壁だな」

「ちょっとふざけないでよ!」

「ふざけてないわ、ここが入り口よ」



そして今。
私は3番線と4番線のホームの真ん中の柱壁のまえで荷物カートをおしながら呆然としている。周りには多くの人が忙しそうに走っていったり、何かを聞いていたりと騒がしい。そんな中なんで電車も待たずに壁の前に突っ立っているのか…



「よし、じゃあパパは先に行くからママとこい」

「わかったわ」

「え??いくってどこに、」



パパがそういった瞬間目の前の壁に早足で駆け込んでいく。ぶつかる!!って思った瞬間……

パパの姿は壁に吸い込まれたように消えた。



「!!?」

「さぁ、私達もいくわよ?」


ママがにやっと嫌な感じに笑った。絶対あたしがびっくりするの見たくて秘密にしてたんだな…!
そんなことを思えばママがぐいっと背中を押してカートと私を抱えたまま壁に突っ込んでいく。ぶつかる、って瞬間その感覚はなくてぼやけた黒の世界に包まれたかと思った時にはもうすでに違う場所にいた。



「え、あ…」

「驚いたか?ミリア!」

「ここが9と3/4番線への行き方よ」




驚く私の前には煙をたてているホグワーツ特急と、たくさんの寮色を身に纏ったホグワーツ生でごった返していた。












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