「くっ……!」
「ユウっ!」
「───っ!バカ、お前……」
動揺しつつもきっちりと隙のできたAKUMAを切り裂く神田の『六幻』。忌々しそうに一つ舌打ちをして哀れな玩具(AKUMA)の残骸を睨みつけてからうずくまる少女へとかける。
「こんの…バカ…ッ!なんで俺を庇った!」
エクソシストのため、AKUMAのウイルスは浄化できるが、基本的にミリアはただの少女だ。自分のように特異な身体能力を持っているわけでもなく、戦闘に慣れているわけでもない。
「だってユウもさっき庇ったじゃん」
「それは俺が……っ!」
ミリアは知っているはずなのに。神田の身体は普通とは違うのだと。傷など、すぐに直るのだと。知っているはずなのに少女は庇った。予想よりも強力になっていたAKUMAの攻撃から大切な少女をかばい、血まみれになっていた神田を。無傷で守り通したかった少女が、自分を。
あの程度の敵に苦戦する己の無力さと不甲斐なさから、そしてミリアのあまりにも無謀さにいらつき激昂しかけた青年に少女はほがらかに笑った。弾丸を打ち込まれて赤く染まってゆく腹部を抑えてほっとしたように笑ってから少しだけ咎めるように顔を険しくした。
「……痛いんだよ」
「?……おい、ミリア?」
傷を見て、さほどふかくないのを確認していた神田は小さな呟きに顔をあげる。真っ直ぐに自分を見つめる視線にたじろぐ。
「自分がケガするより、ユウが傷だらけになってく方が痛いの!」
「俺はお前を守りたくて…!」
「あたしだって守りたいよ!」
「お前が傷つくところなんか──」
「ユウが傷つくところなんかみたくない!だって……」
神田を遮り、叫ぶように言い返していたミリアは急に口ごもる。うつむき、言葉を探すように目を閉じてから愛しい人を両目に映す。
「大好きだから」
あなたの傷は私の傷。誰よりも深くあいしているからこそ。呆気にとられた神田に少女は顔を近づける。ほんの少し、唇が触れ合う程度。朱に染まる美青年の顔を見て笑う少女の顔もまた、かすかに赤くなったいた。
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砕夜 密様より