走る少女を追いかけるはAKUMA。機械に近い体(フォルム)を持ちながらどことなく生き物になりそこなった印象を与える。
それともそれは機械となった人間のなごりか。
どちらにせよ、それは元は追いかけられている少女の親友の恋人だったことに変わりはない。
少女にとっては親友の姿をしていた『何か』だが。
つい先日亡くなった恋人に泣きふせていた親友を慰めようとその家を訪れたのが間違いだった。愛しい人を失った痛みに耐えきれなかった親友であったものは少女を追いかけ、ついには街の外れまで一人と一つは来た。
必死で逃げる少女は人並み以上の運動神経を持っていたが、所詮は人の枠に収まる。
それは十分におよぶ、逃避により衰えていく。息もあがり、めまいを覚え始めた少女はついに倒れこむようにして小石に躓いた。
持ち前の気丈さだけで慌てて振り返り、迫る丸い球体を睨みつけた。
絶体絶命。
「───ッ」
か細い吐息で気持ちだけは向かいうつように睨みつけ──
白刃が舞った。
だが死の瀬戸際に立ってなお目を開き続けた少女には確かに見えた。長い黒髪を一つにしばり、あまった髪と黒いロングコートを風にはためかせながらAKUMAへと向かっていた少年が。
自分と大して変わらない年齢だろうか──妙に冷めた気分で少女は思った。崩れ落ちる『人のなれの果て』(AKUMA)。
収められないまま陽光を弾き返す白銀の刀身。凛としたその少年の姿。少女の大きく開かれた瞳にくっきりと映り、離れない。
あたりを少し見回してから少年はようやく少女に初めて目を向け、しばし固まった。
過度な運動により乱れた髪に、自分を映す澄んだ瞳。飾りたてる物がなくとも可憐と称せるその顔立ち。
日常とは遠く離れた事態に出会ってもなお、気丈なその姿。
二人は長く、動けないまま見つめあっていた。
そのせつなの偶然と
一種の奇跡に彩られた
それを────
人は運命と呼ぶ。
───────
砕夜 密様より
(神田夢)