ウォーゲームは始まった。それでも私の生活に何か変化があるわけではなかった。いつも通りに暴れまわり、いつも通りに命令に従う。そんな中に、タイマンという新しい見物用のゲームが追加されただけの話。
「ニコラ、」
「ファントム?…何か用なの?」
そんな中私が城を歩いていれば後ろから聞き慣れた声。振り向けばいつも通りに笑顔を浮かべたファントムがこちらを見つめている。
「いやあ、ちょっとしてもらいたい仕事があってね、頼まれてくれるかな」
「ノーなんて言わせてくれないくせに。…それで仕事は?何をするの?」
「ここから北にある街をある程度荒らして、ARMを持って帰って来て欲しいんだ。近くにMARの連中が集まっているらしいからね、強い子じゃないと、君みたいな。」
「了解、すぐに行くわ。」
ほめ言葉とも嫌みともとれる一言をそのままスルーして私はすぐに返事を返した。するとにっこりしながらありがとう、と一言いって私の横を通り過ぎていったファントム。楽しいんだね、あんなにニコニコして。
MARと戦うゲームは、
そんなに楽しいの?
彼の冷たい背中を眺めて思った。しかし何も言うことなど出来ずにそのまま彼を見送り、私もそっと城をでた。すぐにアンダータを発動させて近くの街におりれば森に足を踏み入れた。そのままMARにバレないように徒歩で目的地へ。そんな中、
「次の街までどれくらいなんだ?修行しに行くんだろ?アルヴィス。」
「もうすぐだな」
「それにしても珍しいッスね。アランさんがオイラ達を呼び出すなんて」
「本当にね、何するのかな」
MAR…!!
私の歩く森の中から声が聞こえて耳を澄ますと会話。名前や人数からすぐに私は把握した。運悪くタイミングがあってしまったみたいだった。しまった、見つかる前にこの場を去らなくては。私が小さく舌打ちして走り出そうと足を構えた。しかしピタリと足は止まってしまった。
「まぁ、修行ってったって自分らなら直ぐにどうとでもできるんやない?」
(「……ボス…!」)
聞き慣れた関西弁。優しい低音。
それは間違いなくボスの声。ついてる、これはついてる。今ボスの所にはいれば力になれるかも知れない。頭の中にどんどん想像が駆け上がっていく。チェスから逃げられるかも、という希望。私は足をMARにむけようとした。
しかし、
頭をよぎったのは自分がどんな形でも裏切り者だという事実。今出て行っても私は「チェスの兵隊のニコラ」であって、「ルベリアのニコラ」 ではない。そんな私が前に出てもただ蔑まれるだけじゃないかという恐怖が私の足をつかんでしまった。
ガタガタ震える肩が私にボスに会いに行きたいという心を止めてしまう。嫌だ、もう嫌われているのは百も承知。でもそれを思っているのと直接言われるのは差がある。
「嫌……」
恐怖には打ち勝てなかった。
ギュッと唇を噛み締めて気づかれないように私は北の街に向かって走り出した。
辛い。
視界が滲むのがわかった。
砕けたのは最後の希望
(いつからか流してない涙が目に溜まっていくのがわかった)